SF映画

映画【DUNE/デューン 砂の惑星】おつまみ【桃と生ハムのサラダ】

画像引用:©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc.  All Rights Reserved

この映画はこんな人におススメ!!

●砂漠がたまらなく好きな人

●宇宙戦争的なものが好きな人

●最新のCGテクノロジーを堪能したい人

●深いテーマを盛り込んだ難解なSF作品が好きな人

タイトルDUNE/デューン 砂の惑星
製作国アメリカ
公開日2021年10月15日(日本公開)
上映時間155分
監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、
レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、
ジェイソン・モモア、ハビエル・バルデム

壮大な悲劇を目撃したい時に観る映画

今作はハリウッド積年の企画であり、映画化自体が一つの事件でもありました。

1965年にアメリカのフランク・ハーバートが発表したSF小説「デューン 砂の惑星」。

1985年の「デューン 砂丘の大聖堂」まで計6作品の大長編大河ドラマシリーズです。

壮大な物語展開と、複雑な設定、イスラム文化の影響や世界史に対する示唆に富んだ表現。

遥か未来の話でありながら、近代の社会問題に言及した鋭い批判性。

余りにも奥深い世界観を持った小説だけに、長く映像化は不可能であるとされてきました。

1984年に公開されたデイヴィット・リンチ監督版の映画は、

この壮大な物語を描くには技術的にも内容的にも満足のいく出来では無く、

映画ファンの間では世紀の駄作と揶揄されてしまう結果になりました。

そんな中2016年の【メッセージ】や、

2017年の【ブレードランナー 2049】で高い評価を集めた

フランスのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督に白羽の矢が立ったという訳でした。

結果は世界中で2億ドルを超える大ヒット。

第94回アカデミー賞でも6部門に輝く評価を受けました。

最新のテクノロジーと製作者達のクリエリティビティによって、

フランク・ハーバートの描く原作の世界観を見事に表現した今作品は、

正に映画という表現手段の一つの到達点と言える様な作品になりました。

壮大なる叙事詩

画像引用:©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc.  All Rights Reserved

物語は宇宙規模の壮大な戦争を描きながら、

一人の青年が辿る成長譚でもあります。

互いに長い歴史の中で壮絶な権力争いを繰り広げてきた、

アトレイデス家とハルコンネン家の戦い。

因縁と利権とが複雑に絡まり合い、

この両家の戦いは砂の惑星の運命を掛けた激しいものになっていきます。

主人公のアトレイデス家の跡取りであるポールは、

「読真術」と呼ばれる声によって人を操ったり、

未来を予見する力を不完全ながら持っていたりします。

策略によって父親である公爵を失い窮地に立たされたポールは、

追い込まれる事で自らの能力を覚醒させていきます。

この物語には重要な集団結社が二つ登場します。

SF作品が往々にして現実世界の反映である事の例に漏れず、

今作にも様々な暗喩的な描写が垣間見れます。

主人公ポールの母親が所属する「秘密結社ベネ・ゲゼリット」

これは宗教色の強い集団で、権力の影に暗躍し実行能力にも長けた存在です。

強権的な布教はキリスト教の歴史を彷彿とさせ、

常に歴史の暗部に存在する所はフリーメーソンのようでもあります。

かたや惑星アラキスの先住民であるフレメンと呼ばれる人々も重要な存在です。

彼等はより原理的な経典に基づき、自分達を救う救世主を求め続けてきました。

それはイスラム教やユダヤ教の様なイメージを持たせ、

この二つの相容れない集団の構図が物語をより深い世界観にしています。

単純な正義と悪という図式に留まらず、

それぞれの立場や考えが対立していってしまう様が実にリアルに描かれているのです。

絶妙なハーモニー

今日のおつまみは【桃と生ハムのサラダ】です。

スーパーのフルーツ売り場では近頃桃の良い香りが漂っています。

デザートとしても勿論最高なのですが、

お酒を愛する我々としては、これもやはりおつまみにしたい所。

そこで「生ハムメロン」のあの甘いしょっぱいの神ハーモニーを思い出し、

この一皿に結実したという訳なのです。

これはもう想像以上のマッチング。

ワインが進むこと間違いなしの絶妙なハーモニーを奏でてくれました。

英雄の悲しい宿命

画像引用:©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc.  All Rights Reserved

主人公のポールは父親や信頼のおける友を次々と失い、

絶望と喪失感の中にいながらも生きる為に戦い続けなければなりません。

秘密結社ベネ・ゲゼリットの目標である「クイサッツ・ハデラッハ」と呼ばれる、

究極の存在になる事を母親から期待され、

先住民フレメン達の救世主である「リサーン=アル・ガイブ」である事も

同時に期待されます。

一人の人間にとってあまりに過度なプレッシャーなのですが、

英雄たるものの宿命で彼は多くのものを背負い続けるのです。

それは自分自身の考えや幸せから乖離する事でもあります。

時には愛する者から離れ、大義の為に小儀を捨てなければならない事もあります。

そこが大河ドラマ的作品の宿命でもあり見せ場でもあるのです。

単純な悪を完全無欠なヒーローが退治して一件落着というストーリーでは、

現代人にとっては何のリアリティも感じられません。

光もあれば影もある。

人間臭くのた打ち回り、苦悩の末に何かを選択する主人公。

そこに我々は感情移入するし、応援したくなったりするのです。

主演のティモシー・シャラメは痛みに耐える姿が本当に似合う俳優だと思います。

繊細で複雑な感情を持った等身大の主人公。

全方向からプレッシャーを掛けられ成長していく姿を、

世界の中心では無く世界の片隅で描いた所に、

この作品の新しさがあるのでは無いでしょうか。

映像の革新性は日々進化し、直ぐに新しいものに取って代わられてしまいます。

そこでは無い、普遍的なドラマ作りの部分で芯を喰った演出を見せる事が出来る所が、

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の強みであり、真骨頂であると感じました。

壮大な悲劇を目撃したい時に観る映画。

英雄を描く作品は常に悲劇でもあります。

シェイクスピアや聖書や様々な神話・民話の例に漏れず、

選ばれた人間の苦悩というのは「絵」になる素材です。

伝説のSF小説の待望の映画化。

これは満を持して大成功となったのでは無いでしょうか?

3部作構想ということなので、

映画ファンとしては何としても最後まで心して対峙しなければならない案件です。