サスペンス映画

映画【メメント】おつまみ【オムハヤシライス】

画像引用:©2000 I REMEMBER PRODUCTIONS,LLC

この映画はこんな人におススメ!!

●謎を追う物語が好きな人

●普通の映画では満足出来なくなってしまった人

●自分の存在の不確かさについて考えたい人

●映画の迷宮にハマりたい人

タイトルメメント
製作国アメリカ
公開日2001年11月3日(日本公開)
上映時間113分
監督クリストファー・ノーラン
出演ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス、
ジョー・パントリアーノ

自分の存在が曖昧に感じた時に観る映画

クリストファー・ノーラン監督作品のおススメは今作で5作目。

えいがひとつまみで最多になります。

現代の映画界で彼の作品を無視する事は出来無いですし、

作品毎に見た事も無い驚きを与えてくれる唯一無二の存在です。

そんな彼が商業的にも批評的にも世界にその名を知らしめたのが、

商業映画第2作品目であるこの【メメント】なのです。

この映画を語る上で外せない最大の特徴が、

2つの異なる時系列を用いたカラーシーンとモノクロシーンの存在です。

カラーで撮影されたシーンは冒頭に物語の結末を描き、

そこに至る顛末を逆順で辿っていくという流れになります。

モノクロで撮影されたシーンは更に過去の回想シーンから描き、

順番に進んで行くうちに映画のラストで、

モノクロシーンの最後とカラーシーンの最初が見事に繋がるという仕掛けになっています。

この時系列が逆に進むシーンが短いタームで交互に映し出されるので、

観ている人間は混乱して物語の迷宮に迷い込んでしまうのです。

正直、初見で全てを理解するのは不可能かも知れません。

これは監督が我々に意地悪をしている訳では無く、

物語のテーマの本質に迫る為の仕掛けなのです。

「何が真実なのか?」

「誰が味方なのか?」

観客は主人公と共に疑心暗鬼の113分間を味わう事になります。

全てが明らかになった時、自分の立っていた地面が崩れ落ちる様な、

恐怖と驚きに包まれることになるでしょう。

曖昧な記憶

画像引用:©2000 I REMEMBER PRODUCTIONS,LLC

物語の主人公・レナードは自宅に侵入してきた何者かに妻を殺され、

自分自身も頭に深い衝撃を受け記憶に障害を持ってしまいます。

事件の前の記憶はあるものの、それ以後の新しい記憶を保つ事の出来ない

「前向性健忘症」なる状態になってしまうのです。

10分程度でそれまで自分が何をしていたのか忘れてしまう為に、

彼は出会った人間のポラロイド写真を撮り、そこにどんな人物であるかをメモします。

更に大事な事柄は他人が偽装出来ない様に自らの身体に入れ墨で保存する徹底振り。

時間の経過と共に綺麗サッパリと消えてしまう記憶を何とか留めようと、

必死にメモを取りその断片を繋ぎ合わせて生きています。

そしてそれは全て妻を殺した犯人に復讐を果たす為のもの。

レナードの生きる唯一の目的が妻殺しの犯人に迫る事なのです。

この記憶が消えてしまうという主人公の絶望的な状況を、

我々観客に疑似体験させるのが、シーンを逆順に並べるというノーラン監督のアイディア。

原因から結果という物事の流れの中で、原因の部分がすっぽりと抜け落ちてしまう主人公。

それをリアルに再現する為に、

ノーランはまず我々に結果を見せてから原因の部分をなぞらせるのです。

しかも、映画は終始主人公レナードの主観で語られるので、

彼の認識(思い込みや勘違いも含め)による世界を辿る事で、

強烈な感情移入に導かれるのです。

この曖昧模糊とした記憶の旅路が極限の到達点に至る時、

我々は如何に人間の存在が不確かで曖昧であるという事を知るのです。

記憶という頼りが無い世界で生きる主人公レナードの悲劇。

それはメリーゴーランドに乗ってずっと目の前の馬を追い掛けているかの様。

自分の存在が足元から崩れ落ちる様な恐怖をこの映画は表現しているのです。

記憶の味

今日のおつまみは【オムハヤシライス】です。

このメニューはころっぷ夫妻の記憶に残るメニューなのです。

若かりし頃にころっぷが妻に作ったメニュー。

その何十年か越しの再現です。

と言っても、特にこだわりのレシピという訳では無く、

ごく普通のチキンライスの上に卵焼きを乗せ、

レトルトのハヤシソースを掛けただけという一皿。

この何の工夫もこだわりも無いメニューに喜んでくれたので、

我々の記憶の味として再現しました。

メメント・モリ

画像引用:©2000 I REMEMBER PRODUCTIONS,LLC

この映画のタイトル【メメント】はラテン語の「メメント・モリ」からきています。

これは「自らの死を忘れるな」という意味の、

古くから様々な学問や芸術でモチーフとされてきた有名な言葉です。

「メメント」とは英語のリメンバー(覚えていろ)の様な意味で、

映画の主人公の置かれている状況を見事に表しています。

彼は消えていく記憶を覚えていようと必死に抵抗しますが、

その記憶自体が自らの深層心理によってねじ曲がっていき、

それが自分の存在意義の根底を揺るがせるという皮肉に繋がってしまいます。

人間は一人の例を漏らさずに死んでいく運命の生き物ですが、

死を忘れるなという言葉は反語としての生を考えろというものでもあります。

死を意識する事で生の意味を問う。

メメント・モリという言葉は長い時間を経て我々に多くの事を考えさせてくれます。

映画の主人公はある意味で記憶を失う事で理性を保っていたと言えます。

衝撃の真実が明かされた後、我々は真実というものの必要性を考えざるを得ません。

本当の事が必ずしも人を幸せにするのだろうか?

それは映画という虚構が現実を凌駕し得るという、

映画監督としてのクリストファー・ノーランの静かな反骨精神の様な気もしてきます。

人生の耐え難い苦しみに対する、悲しいまでの人間的な防衛本能。

この物語はただのトリッキーな演出が光る映画という枠を遥かに超えて、

人間の生きる意味にまで到達する様な深いテーマに言及した寓話なのかも知れません。

自分の存在が曖昧に感じた時に観る映画。

作品毎に人々に驚きと発見をもたらせる稀代の天才監督。

かつてのスタンリーキューブリック監督の様に、

映画という枠組みを越えた深遠なテーマに挑み続けるクリエイター。

現代最高の映画監督の才能の確かな萌芽を感じる事の出来る、

何度観ても新たな発見がある歴史的傑作サスペンス作品。

これは何にしても観なければならない映画ファンにとっては

マストな作品であると思います。