画像引用:©2009 PAN-EUROPEENNE – MR NOBODY DEUTSCHLAND GmbH – 6515291CANADA INC – TOTO&CO FILMS – FRANCE 2 CINEMA – FRANCE 3 CINEMA
こんにちは!ころっぷです!!
今日の映画は【ミスター・ノーバディ】です。
前回の記事の【Mr.ノーバディ】と偶然にも同じタイトルですが、
こちらは2010年公開のSFファンタジー映画です。
人生に於けるある一点の選択を分岐点に、
パラレルワールド的に語られる架空の人生。
複雑な構成に賛否両論ある作品ですが、
考えるよりも感覚的に捉える事で自由な解釈の出来る作品だと思います!
この映画はこんな人におススメ!!
●人生のもう一つの可能性について考えたい人
●人生の不思議な偶然について考えたい人
●人生の終わりについて考えたい人
●人生に希望を感じたい人
タイトル | ミスター・ノーバディ |
製作国 | フランス、ドイツ、カナダ、ベルギー |
公開日 | 2011年4月30日(日本公開) |
上映時間 | 141分 |
監督 | ジャコ・ヴァン・ドルマル |
出演 | ジャレッド・レト、ダイアン・クルーガー、 サラ・ポリー、リス・エヴァンス |
もしもあの時、と思った時に観る映画
この映画はちょっと普通では無いSF作品です。
未来の世界を描いてもいるのですが、
主人公の記憶を紐解いていくに連れ、
それが幾通りにも枝分かれしていきどれが本当の過去なのか分からなくなってしまう。
人生の分岐点に於いて、
選ばなかった方の人生もそのまま続いていき、
それが更なる選択肢を経て無数の人生に結び付いていく。
まるで膨張し続ける「宇宙」を示唆している様な、
パラレルワールド的な世界観。
しかしそれを量子力学的な難しい話にするのでは無く、
映像的に連続した一つの物語として描き、
巧みな編集によって一人の人生を俯瞰で眺めた時に、
ミスター・ノーバディ(誰でもない男)が、
誰でもあり得る様に感じられるのが実に不思議な作品なのです。
人は誰しもあの時、ああしていればという後悔を持っています。
あの時選択しなかった人生はどうなっていただろうか?
しかし年老いて自分の人生を振り返った時、
それがどんなものだったか判断する為の唯一のよすがは「記憶」です。
その「記憶」が幾通りもあって混線してしまえば、
何が真実であったかを確かめる術はありません。
この映画は人生の不確かさと同時にその無限の可能性を、
実に豊かな想像力で描き出した画期的なSF映画なのです。
選択をしないという選択

画像引用:©2009 PAN-EUROPEENNE – MR NOBODY DEUTSCHLAND GmbH – 6515291CANADA INC – TOTO&CO FILMS – FRANCE 2 CINEMA – FRANCE 3 CINEMA
主人公のニモ・ノーバディは2092年の世界に於いて、
最後の死ぬ人間としてその生涯を閉じようとしています。
未来の人類は細胞の永久再生で不死になっている様です。
ニモがその長い人生を回想するというストーリーなのですが、
記憶が混濁してしまったのか、
彼の語る人生は同時並行に幾通りも存在し、
それが複雑に絡まりあっていて何が真実なのか分かりません。
少年時代に両親が離婚した時も、
母親に付いていった物語と、
父親の元に残った物語とが並列的に存在するのです。
また幼い頃に出会った三人の女性と、
それぞれ家庭を持った記憶も並列し、
その中でニモは瞬時にそれぞれの世界線を行き来していきます。
ここでは何が「真実」なのかは重要ではありません。
本当は一つも存在しない世界なのかも知れません。
私達がこうして映画を観て、
本当は存在しない世界を体験している事と少し似ているのかも知れません。
どの可能性も有り得た過去であり、
経験しなかったからと言って存在しないとも限らない。
何だか考え出したら頭が痛くなってきてしまいそうですが、
フィクションというものも捉え方の一つの寓話的な解釈とも言える訳なのです。
物語とはそれが真実なのかが重要なのでは無く、
そこに何が描かれているかが大切なのと同じ事ですよね。
私達の人生もそれが自分自身にとってどう感じたのかが、
世界の定義以上に重要なのだと説いている様な気がします。
謎の料理

今日のおつまみは【豚肉のガンボ風】です。
妻の創作レシピシリーズの謎の料理。
アメリカのルイジアナ州の郷土料理「ガンボ」から着想を得て、
冷蔵庫の中身で適当にアレンジした一皿だそうです。
本来は「オクラ」を使った野菜や魚介の煮込み料理なのですが、
小麦粉をはたいた豚肉とセロリやズッキーニをトマトピューレで煮込んだ結果、
何とも味わい深いおつまみに大変身してくれました。
料理にもああしていればという後悔が付き物ですが、
今回は奇跡的な美味しさで大満足でした。
適当というのは本当に偉大です。
不可逆な世界への反抗

画像引用:©2009 PAN-EUROPEENNE – MR NOBODY DEUTSCHLAND GmbH – 6515291CANADA INC – TOTO&CO FILMS – FRANCE 2 CINEMA – FRANCE 3 CINEMA
今作の監督ジャコ・ヴァン・ドルマルは、
1991年公開の【トト・ザ・ヒーロー】という作品で、
カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞し
世界中に名を轟かせた奇才です。
非常に寡作な監督でその後1996年に【八日目】という作品を発表すると、
2009年に今作を制作するまで常に新作を待ち望まれていました。
長い構想期間を経て完璧な脚本の元に完成したこの映画は、
彼にとっても私達映画ファンにとっても特別な一本になりました。
複雑な構成と展開なので初見では取っ付き難いと感じるかも知れません。
しかしこの辛辣で儚い人生の物語は、
結局は「人間の業の肯定」、
嘗て落語家の立川談志師匠が落語を評して語った言葉なのですが、
正に滑稽な人間の行い全てを慈しむ様な映画になっている事に気が付くのです。
人間生きていれば愚かな選択もするし失敗や後悔も尽きません。
自分が嫌になってしまう事も他人を恨む気持ちだって芽生えます。
しかしすべての選択肢の先にも少なからず「幸せ」が存在し、
辛い現実の中にも美しい瞬間が紛れていたりします。
宇宙が膨張を続ける限り時間は不可逆かもしれませんが、
「映画」という想像力の魔法が掛かった世界では、
記憶が同時並行で存在したり、時間が巻き戻ったりすることも可能なのです。
ジャコ・ヴァン・ドルマルは人生の辛辣さに魔法の力で細やかな反抗を試みたのです。
映画の主人公ニモの人生がどんな真実を持っていようとも、
それを決めるのは私達自身の想像力なのです。
SF映画の一つの効能でもある、
想像力を信じる事が出来る稀有な作品の一つなのです。
もしもあの時、と思った時に観る映画。
私達の人生にも「もしも」は付き物です。
過去を変える事は残念ながら出来ませんが、
今を変える事で未来は如何様にも変化し得る。
それに何も特別な超能力は必要ありません。
ただ想像するだけなのです。
人生の終わりのその時に、
一番良い人生を選択出来る様に、
私達に最も大事なものはやっぱり想像力なのでは無いでしょうか。
何て事を柄にも無く考えさせてくれた作品でした。