アニメーション映画

映画【君たちはどう生きるか】おつまみ【とんかつ】

画像引用:© 2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

この映画はこんな人におススメ!!

●スタジオジブリのファンの人

●最先端のアニメーション技術を堪能したい人

●難解な物語にチャレンジしてみたい人

●どう生きれば良いのか悩んでいる人

タイトル君たちはどう生きるか
製作国日本
公開日2023年7月14日(日本公開)
上映時間124分
監督宮﨑駿
出演山時聡真、菅田将暉、柴咲コウ、
あいみょん、木村佳乃、木村拓哉
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生きるという事に向き合いたい時に観る映画

何度も引退を表明しては、それを撤回し新作を発表してきた宮﨑駿監督。

その創作への一筋縄ではいかない想いの強さを、

これまで以上に感じる正に集大成の様な作品であったと思います。

吉野源三郎の有名な児童書からタイトルを取っていますが、

今作は宮崎監督による完全オリジナルストーリー。

現実と虚構の世界が入り乱れる複雑な設定から、

難解で理解し難いと公開時から賛否が激しく分かれた作品でもありました。

スタジオジブリの宮﨑作品と言えば、

子供達に夢や希望を与える冒険ファンタジーというイメージが強いですが、

今作がこれまでで最も「混乱」した作品である事は間違い無いと思います。

宮﨑監督自身も完成した作品に対して「分からない部分がある」と語っていますが、

映画というものが作為と偶然によって作られる「生き物」であるという事を、

如実に表現している様にも思います。

作者の意図を越えた所に、作品としてのダイナミズムが偶発的に生まれる。

私達がこの世界の事をまだ殆ど理解していないのと同じ様に、

人間の想像力というものも実に不可解なものであると言えるでしょう。

この映画をどう感じるかは、我々が思っている以上に実は重要な事なのかも知れません。

「君たちはどう生きるか」と問いかけられていますが、

そこには「何の為に生きるのか」という問いも透けて見えます。

現代人は兎角その「理由」に固執していくのです。

利己的な一面と、献身的な一面。

自分の幸せの為に生きるのか?他者の役に立つ為に生きるのか?

突き付けられる命題は、とても簡単に答えられるものではありません。

映画を観終わってからずっと心から離れない「何か」が、

これまでの宮﨑作品では無かった様なレベルで付き纏い続けます。

宮﨑駿の自画像

画像引用:© 2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

物語の主人公・眞人は母親を火災で失った心の傷を抱える11歳の少年。

時は太平洋戦争の真っ只中であり、母方の実家に父親と共に疎開してきます。

この映画の肝は間違いなくこの主人公の眞人にあります。

これまで以上に観客に委ねる部分の多い作品なので、

あくまでも私見で物を言いますが、この主人公は今までの宮﨑作品の主人公とは違って、

「善」なる者でも「無垢」なる者でもありません。

「悪」とまでは言いませんが、少なくとも「疑念」と「悪意」を持った、

ある種の覚悟を元に世界と対峙している人物なのです。

理不尽な事故で最愛の母を失い、剛健な父親は直ぐに後妻を娶ります。

しかもそれは母親とそっくりな容姿を持つ母親の妹。

疎開先の田舎では悪目立ちをして諍いが起る。

同級生に暴力を振るわれた帰り道でおもむろに自分の頭を石で打つ。

少年の世に対するフラストレーションの発露は歪んでいて、

本心を押し隠し、従順な素振りを見せながら投げ槍で厭世的な性格をしています。

戦争や、自身の生い立ちや、育った環境とこれからの生活に対する不安。

様々な要素が少年の心を歪ませ、その行き場のない怒りや悲しみは

「悪意」となって好戦的な態度に出ていたりします。

幼い頃に戦争体験をし、その後の戦後民主主義の欺瞞を体験した宮﨑駿監督の、

自画像とも取れるキャラクター設定で、その後のあらゆる異常な状況にも狼狽える事無く、

事も無げに受け入れる眞人の豪胆さは、どこか現実離れしていて異常にさえ映ります。

むしろ彼を「下の世界」に誘う小汚いサギ男の方が、

途中から純粋で「善」なる存在に思えてきたりします。

自分に降り掛かる「不幸」や「理不尽」に心を歪めるのが人間であって、

勧善懲悪の漫画の主人公こそ人間離れした異常な存在であるという、

云わば身の蓋も無い事を大人気も無く表現している所が、

今作の特徴でもあり、リアルな部分でもあると感じます。

つまり宮﨑監督はこれまでの傑作で培ったイメージや理論をかなぐり捨てて、

一表現者として自分の限界の「外」へ、

覚悟を持って踏み込んだのではないかと思います。

勿論、自身のキャリアの最後の作品として、

スタジオジブリを壊して迄自分のエゴを通した事によって、

最後の最後に見事に「混乱」した作品を遺してくれた。

それは表現者として実に潔く、カッコいい事だと感じました。

鉄板中の鉄板

今日のおつまみは【とんかつ】です。

私の大好物でございます。

今日の一皿は平仮名で【とんかつ】という感じでした。

家庭的で、ご飯と味噌汁が必要な奴です。

そこは妻も流石に察知してくれた様で、

我が家には珍しく食卓に茶碗と汁椀が並びました。

おつまみとして半分食べて、

おかずとして残り半分を食す。

これもう本当に最高です。

自伝を避ける事は出来ない

画像引用:© 2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

この作品のコンセプト的な事を鈴木プロデューサーに語った時、

宮﨑監督は「これは僕の自伝になる」というニュアンスの事を言ったそうです。

しかし映画が完成して、アメリカのアカデミー賞に向けたコメンタリーでは、

「これは自伝では無い」と意見を裏返したそうです。

(正確な所とは多少ニュアンスが異なるかも知れませんが)

これは映画監督として長く戦い続けてきた宮﨑監督の本音であったのだ思います。

自分の年齢を考えれば、これが最後と思って当然制作に踏み切ったはず。

あれだけ引退を声高に宣言した手前もある。

今作にはクリエイターとしてのエゴしか無い。

誰にも理解されなくても良いから、どうしても作りたいというエゴの塊だったはずです。

しかし完成した作品は実際はそうではありませんでした。

やっぱり宮崎駿という映画監督は観客に対して向き合うクリエイターでした。

これは自伝なのかも知れないし、そうで無いのかも知れない。

自分の人生に於けるテーマの集大成である事は間違い無いでしょうが、

表現者としてやっぱり一つのテーマに固執しそこを掘り続けるという姿勢、

そしてそれによって自分の作品で育った観客達に対する

メッセージを込めずにはいられない、

作家としてのエゴと習性がこの作品の矛盾した美しさに繋がっている様な気がします。

宮﨑駿も、スタジオジブリも、やっぱり世界に対して「希望」を失えない。

「絶望」と「怒り」で世界を糾弾する事には価値を見出さない。

どこまでも甘くて美しい、次の世代に対する「希望」が最後まで失われなかった。

我々ジブリの民はそれを忘れる事無く語り継ぐべきなのだと思います。

生きるという事に向き合いたい時に観る映画。

わたくしころっぷは10代の頃から映画を観続けてきて、

数え切れない作品の中から人生の指標を得て来ました。

嘗ては映画監督に憧れて、それを目指して活動していた事もありました。

今回、宮崎駿というアカデミー名誉賞まで受賞した世界的な名匠が、

こんなにも自我を注ぎ混乱をきたした集大成を制作するなんて、

そんなアンビリーバブルな事が起こるなんてなんて「映画」って素敵なんだと思いました。

劇場で鑑賞した時、余りにも圧倒されて感想なんて何一つ出て来ませんでした。

ただこれはとんでもない作品を作ってくれたもんだと驚愕したのみ。

それを咀嚼し総括する事なんて今の若輩者のころっぷには到底不可能です。

しかし、何か物を作る人間にとって、

どんな形にせよ自伝は避けれないのかも知れないなぁとは思いました。

とんでもないクオリティの自伝ですが、勇気ある決断であったと思います。

ただファンの一人として敬意と感謝を持っています。

凄い映画です。