ヒューマンドラマ

映画【エンパイア・オブ・ライト】おつまみ【明太子じゃがバター】

画像引用:© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

この映画はこんな人におススメ!!

●80年代に思い入れがある人

●イギリスの美しい風景に浸りたい人

●自分の尊厳を取り戻したい人

●人に優しくありたいと願う人

タイトルエンパイア・オブ・ライト
製作国イギリス、アメリカ
公開日2023年2月23日(日本公開)
上映時間113分
監督サム・メンデス
出演オリヴィア・コールマン、マイケル・フォード、トビー・ジョーンズ、コリン・ファース

癒しが必要に感じる時に観る映画

2000年の【アメリカン・ビューティー】。

2002年の【ロード・トゥ・パーディション】。

2009年の【レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで】。

数々の作品で舞台出身の確かな演出力を発揮してきた、

イギリスが誇る名匠サム・メンデス監督。

そんな彼が唯一単独でオリジナル脚本を書いて監督したのが、

この【エンパイア・オブ・ライト】なのです。

主演は2018年のヨルゴス・ランティモス監督作品、

【女王陛下のお気に入り】でアカデミー主演女優賞を受賞した

オリヴィア・コールマン。

圧倒的な存在感と繊細な演技によって、

実に豊かに主人公の孤独な中年女性の内面性を表現していきます。

心に深い傷を負い、周りの世界と上手く折り合いが付けられない彼女の、

癒しと再生の物語が丹念に綴られいきます。

また今作の大きな魅力となっているのが、

80年代から数々の名作で高い評価を受けてきた

巨匠ロジャー・ディーキンスの美しい撮影です。

イギリスの海辺の町を舞台にした今作の映像は、

寒色の透き通る様な淡い色彩で映し出され、

全てのカットが絵画の様に美しく情緒豊かな仕上がりになっています。

また舞台となるクラシカルで絢爛豪華な映画館「エンパイア劇場」の、

細部に至るまでリアルな質感とデザインが素晴らしい出来栄えで、

正に総合芸術と言って差し支えない本物のプロ達の見事な仕事を堪能出来ます。

疲れた心を癒したい時、

ふと誰かの力になりたいと感じた時、

この映画を観れば人生に対する豊かな肯定感を得られる事と思います。

不釣り合いなカップルが見せる新たな時代の予感

画像引用:© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

物語の舞台はイギリス南部の海辺の町マーゲイト。

浜辺の目の前に立つ古風な映画館「エンパイア劇場」で

総括マネージャーとして働くヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、

過去のトラウマから精神を病み、孤独な生活を送っています。

そこへ大学進学に挫折した黒人青年スティーブン(マイケル・フォード)が

新人スタッフとして入ってきます。

優しく知的な雰囲気の彼に好感を持つヒラリーは、

共に働く内に自然とスティーブンに惹かれていきますが、

自分とは不釣り合いであるとも感じているのです。

この凡そお似合いとは言えないカップルの心の交流が

とても美しく描かれていて、

1980年代のどこか朴訥としたノスタルジックな雰囲気と相まって、

微笑ましい描写になっています。

しかし当時の不景気のどん底にあるイギリスの荒んだ社会の余波もあり、

スティーブンは黒人差別に苦しめられてきた心の傷も秘めています。

時はマーガレット・サッチャー首相が押し進めていた

「新自由主義」の時代。

絶望的な不景気で町には失業者が溢れ、

そのフラストレーションは暴発寸前の状況でした。

社会の軋轢が個人の生活にも大きな影を落とす。

女性である事、弱い立場にいる事から、

少しづつヒラリーは自分を解放しようともがき始めるのです。

それは聡明なスティーブンからの影響でもあり、

女性の立場や労働者の立場を向上させようとする、

必死の抵抗でもあるのです。

罪深きおつまみ

今日のおつまみは【明太子じゃがバター】です。

これは罪なおつまみ。

糖質・脂質・タンパク質の三段活用。

カロリーモンスターです。

罪深いもの程美味いからまた困りますよね。

しかし健康の為の摂生も大事ですが、

たまには食に癒しを求めてもバチは当たらないのではないか。

たまにでは無いですが。

癒しもまた日常の中にある

画像引用:© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ヒラリーはとても孤独な女性でした。

劇場マネージャーにはいい様に弄ばれ、

世間からは変わり者として腫物扱いされ、

躁鬱病を患い感情のコントロールに苦しみますが、

心根は優しく、そして正しい考えを持った人間なのです。

そんな彼女もスティーブンとの出会いで、

自分を肯定出来る様になったかに見えました。

しかし男性からの抑圧的な言動に強いトラウマを持つ彼女は、

再び鬱状態に陥ってしまい入院生活に陥ります。

更にスティーブンは暴徒と化した民衆に襲撃され、

瀕死の重傷を負ってしまうのです。

女性差別や人種差別が長い歴史の中で、

実に根強く執拗に人の心を蝕んできた事を、

この映画は私達に強烈に突き付けます。

それは社会悪でもあり、人間の醜い本性でもあります。

監督のサム・メンデスも母親が同じ病で苦しんでいた過去を持ち、

その個人的な経験がこの映画の重要なテーマとなっているそうです。

社会の片隅で傷付き、その翼を癒す為に閉じ籠っている全ての人間に、

「映画」という幻が見せてくれる「希望」。

その「癒し」の力の偉大さを監督は表現したかったのではないでしょうか。

劇中、映画を決して観ないと言っていたヒラリーが、

閉館後の劇場でたった一人の為に上映して貰って観た映画。

それは1979年公開のハル・アシュビー監督作品【チャンス】。

ピーター・セラーズ演じる風変りなチャンスという中年男性が、

閉じられた世界から出て人生の意味を知っていくという物語。

この作品に涙を流したヒラリーの表情が本当に素晴らしいのです。

作り物である「映画」というものが時に人生の意味を諭してくれる。

それは癒しとなり、活力となり、希望にもなり得る。

サム・メンデス監督以下この映画に携わった人々の、

映画に対する深い愛が感じられる名シーンになっています。

癒しが必要に感じる時に観る映画。

この映画は本当に撮影が美しいです。

冒頭の数カットを観ただけで名作である事が分かりますし、

最後までその丁寧な積み重ねは私達の期待を裏切る事はありません。

近年、このような本物の映画に出会える事は実に稀です。(残念ながら)

ロジャー・ディーキンスの撮影を堪能するだけでも観る価値のある作品です。

毎日の生活に心が少し疲弊したなと感じた様な時には、

是非「エンパイア劇場」の扉を開いて映画の魔法を全身に浴びてみて下さい。