恋愛映画

映画【キャロル】おつまみ【生ハムと巨峰のバゲット】

画像引用:© NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

この映画はこんな人におススメ!!

●大人の恋愛映画が観たい人

●同性愛を描いた作品に興味がある人

●50年代のニューヨークの雰囲気を感じたい人

●自分らしく生きる事の意味を考えたい人

タイトルキャロル
製作国アメリカ、イギリス
公開日2016年2月11日(日本公開)
上映時間118分
監督トッド・ヘインズ
出演ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー
created by Rinker
¥4,136 (2024/12/06 03:48:05時点 楽天市場調べ-詳細)

人生を変える出会いを体験したい時に観る映画

この作品は観る者を試す映画であると言えます。

一見しただけではその物語の奥深くにある意味を理解するのは難しいかも知れません。

人生に於けるある出会いが、全てを変えてしまう物語。

封建的であらゆる差別がまだ当然であった50年代を舞台に、

自分らしく生きる事の困難と戦った女性達。

その美しくも悲しい物語が荘厳に描かれています。

この物語を表現するのに欠かす事の出来ない主演の二人の女優。

現代のハリウッドで最高の評価と尊敬を集めるケイト・ブランシェット。

そして今作でカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞したルーニー・マーラ。

彼女達の感覚的でテクニックを越えた所にある表現力によって、

この作品は唯一無二の傑作として記憶される事になったのです。

シーンとシーンの間にも語り尽くせぬ時間の流れがあったかの様な、

その関係性の中にあらゆる重みや痛みが実感として表現されている素晴らしさ。

これはこの二人の女優無くしては実現する事が出来なかった高みであると言えます。

そして何より映像の美しさ。

一瞬の油断も感じさせない完璧な画面作り。

登場人物の感情を如実に表現する色彩感覚。

衣装やメイクやヘアメイク、美術に音楽にロケーションまで。

本当にプロの中のプロの仕事を堪能出来る作品です。

自身もゲイである事を公表している監督のトッド・ヘインズの、

抑制された静かな演出。

その中に自分らしく生きる為に戦う人間の激しい怒りが込められている作品なのです。

静かに燃える炎

画像引用:© NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

物語は写真家を夢見る百貨店店員のテレーズと、

気品溢れる富豪夫人のキャロルとの出逢いに始まります。

おそらく二人は最初にその視線を交わした瞬間から、

互いに相手に運命的なものを感じていたのでしょう。

ゆっくりと互いを知るにつれ、

二人の中に静かな炎が燃え始めているのが分かります。

テレーズは恋人からプロポーズを受けますが、

自分の人生に疑問を持っていて苛立つ心を抱えています。

キャロルは離婚を決心していて、

唯一の心の拠り所は愛する一人娘のリンディだけでした。

1950年代当時、同性愛は精神的な病と捉えられ、

犯罪と同様に扱われ徹底的に差別されていました。

二人の出会いは運命的で、互いに惹かれ合うのは時間の問題でしたが、

それを表立たせる事は不可能な時代でした。

今作はその不条理を声高に批判するのでは無く、

ただ自分らしく生きる事の出来なかった人間達の悲哀を丹念に描く事で、

人生において何が大切であるかという事を浮き立たせていきます。

破滅的なものや、衝動的な展開では無く、

静かに燃える炎の強さをこそ、

トッド・ヘインズは表現したかったのだと思います。

まるで遠い記憶の様な薄いベールの光彩に包まれた様な映像には、

誰にも言えぬ苦しみの蓄積を生きた多くの人々の悲哀が込められているのです。

ちょっと洒落たおつまみ

今日のおつまみは【生ハムと巨峰のバゲット】です。

格調高めの映画に合わせてちょっとお洒落なおつまみです。

生ハムの方にはミモレットチーズも乗っています。

フルーツと炭水化物の組み合わせは意外にピッタリくるんですよね。

白ワインのグラスを傾けながら、

50年代の雰囲気にどっぷりとハマりながらのえいがひとつまみ。

揺れ動き、絡み合う人生

画像引用:© NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

今作の原作は1960年にルネ・クレマン監督が映画化した、

【太陽がいっぱい】でも有名なアメリカの小説家パトリシア・ハイスミス。

彼女が1952年にこの小説を発表した時は、

同性愛に対する差別があった為に偽名で発表されました。

彼女自身も同性愛者であったのですが、

それを公表出来たのは随分と時を経ての事でした。

この物語はパトリシア自身の実体験を元に書かれた部分もあるという事らしいのですが、

彼女のサスペンス作品に通底する暗喩的な表現が映画にも見事に踏襲されてます。

人間の感情の奥深くに隠された嫉妬や憎しみ。

不安の中に揺れ動く心の機微。

それらが台詞やモノローグでは無く、

映像に散りばめられた様々なモチーフがモザイクの様に重なり合って、

一つの物語を形作っていくのです。

これは何度も観直して理解を深めていく喜びのある作品と言えます。

映画とは本来そのように向き合うべきものなのでは無いでしょうか。

このほぼ完璧な形で再現された1950年代のニューヨークの物語は、

私達に改めて自分らしく生きる事の困難と大切さを教えてくれています。

許されぬ愛。

社会の中で生きる事。

自分にとって最も大切なもの。

それらとどう向き合っていくべきかを問い掛ける作品なのです。

人生を変える出会いを体験したい時に観る映画。

人は誰しも内に孤独を抱え、

理解を得られぬままに時に自分を曲げて生きる事も余儀無くされます。

その不遇がいつまで続くのか分からない事もあるでしょう。

時には自暴自棄になる事だってあるかも知れません。

しかしそれは全て終わりある命の上に、

限りある人生がある事で救われる事もある様な気がするのです。

つまり当たり前の事ですが、

人生とは永遠では無いから美しいのです。

自分らしく生きる事は、その人生を唯一肯定してくれるものです。

ハイスミスの小説とも、トッド・ヘインズの演出とも、

もしかしたらかけ離れているのかも知れませんが、

この映画からは勝手にそんな事を考えてしまいました。

言うは易く行うは難しですが、

とにかく必見の映画である事は間違いありません。