アクション映画

映画【ジャンゴ 繋がれざる者】おつまみ【豚の角煮】

画像引用:© 2012 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.

この映画はこんな人におススメ!!

●嘗ての西部劇が好きな人

●過激なバイオレンスシーンもOKな人

●胸空く勧善懲悪劇が観たい人

●何だかんだ言ってもタランティーノを愛して止まない人

タイトルジャンゴ 繋がれざる者
製作国アメリカ
公開日2013年3月1日(日本公開)
上映時間165分
監督クエンティン・タランティーノ
出演ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、サミュエル・L・ジャンクソン、
レオナルド・ディカプリオ

勧善懲悪のカタルシスを味わいたい時に観る映画

ハリウッドの異端児クエンティン・タランティーノ監督の作品中、

最大の興行成績を記録しているのがこの【ジャンゴ 繋がれざる者】です。

第85回アカデミー賞ではクエンティン・タランティーノ監督が、

1994年の【パルプ・フィクション】以来二度目の脚本賞を受賞。

更に2009年の【イングロリアス・バスターズ】に続いて、

クリストフ・ヴァルツが二度目の助演男優賞を受賞しました。

60年代に大流行したイタリアのマカロニ・ウェスタン映画、

特に1966年のセルジオ・コルブッチ監督の【続・荒野の用心棒】から

大きなインスピレーションを受けて今作は作られました。

この【続・荒野の用心棒】の主人公の名前が「ジャンゴ」で、

主演したフランコ・ネロは今作にもカメオ出演しています。

正にタランティーノ監督の映画オタク振りが遺憾なく発揮された作品と言えます。

アメリカの歴史の最大の暗部である黒人奴隷問題。

その重く暗いテーマを勧善懲悪の復讐劇として強烈なカタルシスとして描く所が、

クエンティン・タランティーノ監督らしさと言えるのではないでしょうか。

目を覆いたくなるような暴力描写。

過激でブラックなジョーク。

夢に出て来そうな強烈で灰汁の強いキャラクター造形。

徹頭徹尾タランティーノ印満点のエンターテイメント作品です。

毒を以て毒を制す

画像引用:© 2012 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.

物語は19世紀のアメリカ南部を舞台にしています。

この時代は黒人を奴隷として売買する事が法律で認められていました。

南北戦争後にリンカーン大統領が奴隷解放宣言をするのは1863年。

それ以前の黒人奴隷達には人権というものがありませんでした。

主人公のジャンゴも奴隷として売り飛ばされ妻と生き別れていました。

そこへ偶然知り合ったドイツ人の賞金稼ぎのシュルツと手を組み、

ミシシッピの大農園で苛烈な奴隷生活を送る妻ブルームヒルダを

大悪漢のカルビンの手から助け出すというストーリーです。

勧善懲悪といっても主人公ジャンゴも相棒シュルツも清廉潔白のヒーローではありません。

賞金稼ぎの為に犯罪者達を容赦無く撃ち殺し、善や義の為に戦う訳では無いのです。

西部劇の主人公は大抵脛に傷を持つ流れ者と決まっていますが、

今作も如何にもタランティーノらしい異質で象徴的なキャラクター設定と言えるでしょう。

インテリ的な品格も感じさせる雰囲気のドイツ人シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)と、

鋭い矢の様な眼光を持つ反逆の黒人ガンマンジャンゴ(ジェイミー・フォックス)。

この何とも言えない不釣り合いなコンビが絶妙な可笑しみを醸し出しているのです。

対する大農園の主人であるカルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオが強烈な演技

を見せています)は絵に描いた様な冷酷な悪漢です。

黒人奴隷を人間とも思っていないサイコパス野郎で、

表面上は上流階級の人間の様で一皮剥けば血に飢えた獰猛な獣そのものなのです。

この強烈な社会の毒を、更に常軌を逸した毒で以て制す。

タランティーノ作品ではお馴染みの強烈なバイオレンスシーンによって、

しっかりと鉄槌が悪の上に振り落とされるカタルシス。

そこにリアリティは必要なく、

どこまでも劇画的に漫画的に、

誇張と過剰さで観客を強烈に引き込んだ末に唐突に放り捨てる。

ドS過ぎる潔さに茫然とさせられるのが、

この映画の正しい鑑賞姿勢なのです。

おつまみの名コンビ

今日のおつまみは【豚の角煮】です。

大好物中の大好物ですが、

豚バラ肉の傍らには必ず卵が必要ですよね。

やっぱりこれがあるのと無いのとでは天地程の差があります。

映画のデコボココンビの様に、

おつまみにも名コンビがあるものです。

ちなみに角煮はとろける系よりも、

しっかりと弾力のある肉体派が好きです。

対立を抜き身で描くという事

画像引用:© 2012 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.

19世紀の奴隷制度まで遡らずとも、

アメリカ社会における黒人差別を扱った映画は枚挙に暇がありません。

どんなジャンルの映画であってもそこに多人種がいる限り、

そこには少なからずの軋轢が垣間見えるものです。

それはデリケートな問題でもあり、

また昨今のコンプライアンス重視の風潮の中では

特に扱いに慎重にならざる得ない所があります。

が、そんな事を軽く凌駕してしまうのが、

神をも恐れぬ私達のムービーアンチヒーロー、

クエンティン・タランティーノという男なのです。

ジャンゴはただ妻を救うという事の為に命を掛けて戦いますが、

結果として黒人の怒りのエネルギーを抜き身でスクリーンに叩き付けます。

対立や分断を何の忖度無しに描くのです。

そして悪い奴には容赦の無い「死」を与えます。

白人であろうが、黒人であろうが、男であろうが、女であろうが。

そこに差別はありません。

全員、死刑です。

今日にまで尾を引く対立の歴史の根源には、

ヨーロッパ諸国の奴隷商人による信じられない悪行があります。

それはどんな理屈を並べても取り返しの付かない人類の汚点です。

タランティーノはそこにどんな人間でも分る様な懲悪を描く。

子供にもちゃんと分る様に。

馬鹿にも分かる様に。

単純で下品で不謹慎で不適切な描写で。

そこが作家として信頼に足る彼の才能なのだと思います。

勿論、嫌いな人は多いでしょうが、

彼が正しいと言ってるのではありません。

ただ作家としてあるべき姿であると感じるのです。

勧善懲悪のカタルシスを味わいたい時に観る映画。

映画とは当たり前ですが自己啓発のテキストでも無ければ、

道徳の教科書でもありません。

作家によるとても偏った思想と趣向の塊であり、

創造のエネルギーとその排泄物の様な物。

特にタランティーノという男に我々が惹きつけられるのは、

映画を誰よりも愛し、そして畏怖しているからに他なりません。

自らの身体一つで足枷を外し自由の身になったジャンゴの様に、

私達も自らの常識から解き放たれて「映画」を体感したいと願うばかりです。