アニメーション映画

映画【MIND GAME マインド・ゲーム】おつまみ【チーズショートパスタ】

画像引用:©2004 MIND GAME Project

この映画はこんな人におススメ!!

●見た事の無いアニメ表現を体感したい人

●和製トリップムービーに興味がある人

●人生をやり直したい人

●何が何でも生きるという力を与えて欲しい人

タイトルMIND GAME マインド・ゲーム
製作国日本
公開日2004年8月7日
上映時間103分
監督湯浅政明
出演今田耕司、前田沙耶香、藤井隆、
山口智充、坂田利夫
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超絶ポジティブなパワーが欲しい時に観る映画

今作は日本アニメーションの歴史に強烈なインパクトを与えました。

スタジオジブリという巨大な船に多くの才能が集まり、

そこからそれぞれ自分達の理想を追って枝分かれした時代。

本作のプロデューサーである田中栄子もスタジオジブリを経て、

STUDIO 4℃という会社を作り、

1995年に大友克洋が製作総指揮を取った【MEMORIES】を制作します。

正に日本のアニメーション界が大きな変革を迎えようとしていた時代。

新進気鋭のクリエイターに自由な創作の場を提供する事を掲げていた

STUDIO 4℃が新たに白羽の矢が立てたのが、

天才アニメーターと呼ばれていた湯浅政明だったのです。

テレビアニメ「ちびまる子ちゃん」や「クレヨンしんちゃん」などで

培った斬新な構図は今作でも健在で、

ハイテンションなトリップ感はこれまでの日本映画には無いポップセンスでした。

どこまでも自由に飛躍するコラージュ的な作画。

山本精一による前衛的な音楽。

予測不可能な物語の展開力。

そして凄まじいまでのポジティブなエネルギー。

同年公開の宮﨑駿監督の【ハウルの動く城】を抑え、

文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の大賞を受賞した事も、

単なる偶然でもまぐれでもなかったという事です。

圧倒的な独創性から難解で実験的な作品という評価もありますが、

ただ単純に観ていて面白く、

下品で意味不明な描写に笑ってしまう作品でもあります。

兎に角人を元気にするパワーを持った、超絶ポジティブな映画なのです!

若気の至りの爆発

画像引用:©2004 MIND GAME Project

物語は漫画家を夢見る主人公の西が、

偶然初恋の相手であったみょんと再会する所から始まる。

みょんは家庭の事情で借金取りに追われており、

姉が切り盛りする居酒屋で西と酒を酌み交わしている所に、

二人組のヤクザが押し入ってくる。

そして凶悪なヤクザによって肛門から銃弾を撃ち込まれ西は非業の死を遂げてしまう。

何も成し遂げていない若者の、呆気なく無様な最後。

自らの死に納得出来ない西は、神様の制止を振り切ってこの世の未練から蘇生してしまう。

荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい話なのだが、

これがまた中々に身に迫る切実な展開なのである。

何者でも無いちっぽけな存在の取るに足らない人生が、

当たり前だが当人にとっては掛け替えのないたった一度きりの人生なのだ。

どんなに不様であろうと、不遜であろうと「生」に噛り付く西の生命力には、

初め笑って観ていた私達も、次第に真剣に応援したくなってきてしまうだ。

そこに重ねられる普遍的な人間の姿。

誰だって理想の自分になれずに後悔ばかりの人生を送っている。

「死」を経験した西は正に生まれ変わった様な躍動感にみなぎり、

八面六臂の活躍でヤクザの追手から逃走するのである。

この作品の特筆すべき点は正にこの人生のやり直しにあるのです。

物語に登場する人間の悉くが思っていた様な人生を歩んでいない。

嘗ての理想や夢が走馬灯の様に映画の冒頭と終わりに羅列されるのですが、

この人生の残酷性に対して、

あらん限りの力で抵抗するという云わば現代の幻想的理想論を、

アニメーションの自由なイマジネーションで限界まで増幅させていく表現が、

私達観客に理屈を越えたカタルシスをもたらしてくれるのです。

それは音楽の様であり、ダンスの様であり、

極限の技術を駆使したスポーツ競技の様でもあり、

しかしそれはやはり夢と現実の狭間に存在する「映画」そのものでもあるのです。

小麦の奴隷

今日のおつまみは【チーズショートパスタ】です。

我々小麦の奴隷にとって、

ショートパスタは丁度お酒のお供となってくれる心憎い存在なのです。

今回は白ワインにピッタリのエリンギと合わせチーズソース。

螺旋状のショートパスタ「フジッリ」は、

パクパクと摘まんでもお腹が必要以上に膨れる事も無く、

それでいてフォークが止まらない中毒性のある形状。

こうしてまた我々は甲斐甲斐しく自ら小麦の奴隷となっていくのです。

爆発的なイマジネーション

画像引用:©2004 MIND GAME Project

今作の魅力を言葉で伝えるのには少し無理がある。

兎に角自分の目で観てその圧倒的なイメージの洪水を浴びてみるしかない。

「意味不明」で「理解」出来ないと感じてしまうかも知れない。

或いは単純に絵の力と馬鹿馬鹿しい展開に笑ってしまうかも知れない。

つまりこれ程までに受け取り手側の感性が試される映画も他に無いという事なのだ。

稚拙で陳腐であるかも知れない。

しかし一旦常識のフィルターを外してみれば、

ここにとても普遍的で深い人生哲学が描かれている事にも気が付く筈だ。

たった一度の人生に全力で立ち向かう事の

何とも痛々しくて美しい姿勢なのだろうかという所。

我々は取るに足らないちっぽけな存在の集合体ではあるが、

想像力の力を持ってすれば不可能な事は無い。

そんな夢を見せてくれる力がこの映画にはあるのだ。

物語の後半で主人公の西たちは鯨に飲み込まれ脱出不可能のピンチに陥るが、

実はそこは安全で居心地の良い楽園でもある。

現実世界の辛辣で意地悪な脅威とも無縁な安全圏。

自由で気楽な時間を貪る事が出来る。

それまで諦めていた自分の好きな事に没頭する事も出来る。

しかしそれが「人生」の意味なのであろうか。

現実から逃げる事で得られる「安心」よりも、

自分を奮い立たせ現実に抵抗する道を模索する事。

鯨の腹から必死に脱出を試みる西たちの躍動の中にこそ、

人間本来の生きる事への切実な美しさがある。

それをこんな不細工で荒唐無稽な物語で気付かせる湯浅政明のストーリーテーリングは

本当に恐ろしい。

超絶ポジティブなパワーが欲しい時に観る映画。

アニメーションの概念を作品毎に壊していく湯浅政明監督の原点。

2022年公開の【犬王】でも見られた人間の極限的な身体表現。

アニメーションでしか出来ない事を突き詰め、

アニメーションでは考えられなかった表現に言及する。

湯浅政明というクリエイターは日本人よりも寧ろ世界に評価されている様で、

私達はもっと研鑚を積んで彼のイマジネーションに食らい付いていくべきなのです。

宮崎駿や大友克洋、もっと遡れば手塚治虫まで。

第一線のクリエイター達が歩んだ修羅の道を、

今正に最前線で進む湯浅政明という才能からこれからも目が離せないのです。