ドキュメンタリー映画

映画【ストップ・メイキング・センス】おつまみ【焼き飯】

画像引用:© Photofest / Getty Images

この映画はこんな人におススメ!!

●ライブ映画が堪らなく好きな人

●トーキング・ヘッズのファンの人

●ここではないどこかに行きたい人

●最高の音楽体験がしたい人

タイトルストップ・メイキング・センス
製作国アメリカ
公開日1985年8月3日(日本公開)
上映時間89分
監督ジョナサン・デミ
出演デイヴィッド・バーン、クリス・フランツ、
ティナ・ウェイマス、ジェームズ・ハリソン

音楽と映像の奇跡の融合を体感したい時に観る映画

1974年に結成されたアメリカのロックバンド【トーキング・ヘッズ】。

アフリカン・ビートを大胆に取り入れたサウンドと、

フロントマンのデイヴィッド・バーンによる不条理な歌詞世界とで、

唯一無二の世界観を築いた伝説のバンドです。

彼等のキャリアのピークに行われたこの奇跡のライブの映像は、

2024年、40年の時を経て4KレストアされIMAXシアターで上映されました。

気鋭の制作会社A24が配給し、

未だ古びれない音楽の初期衝動が世界中を虜にしたのです。

嘗ても多くのバンドやアーティストのライブを映画化した作品がありましたが、

この【ストップ・メイキング・センス】はまさにその場にいる様な臨場感と興奮を、

与えてくれる作品なのです。

アーティストのインタビューやヒストリー的な描写は一切無し。

徹頭徹尾ライブの仔細を見事なカットで見せ付けてくれるのです。

極端に落とされた照明に浮かび上がる舞台。

ミュージシャン達の一挙手一投足を捉えた迫力の撮影。

デジタルリマスターで蘇るクリアで繊細な音像。

音楽と映像とがこれ程までに一体となって観客に迫ってくる作品も他とありません。

誰もが血沸き肉躍る狂乱のステージに釘付けになる事でしょう。

奇跡のライブ

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70年代後期にニューヨークのニューウェイヴの波に乗り、

デビューしたトーキング・ヘッズ。

1980年の傑作【リメイン・イン・ライト】は、

それまでのロックミュージックの概念を覆し自由で刺激的、

且つ奥深い文学性も感じさせる革新的な作品でした。

アフリカ音楽の激しいリズムとエッジの効いたカッティングギター。

チープでレトロなエレクトロサウンドにデイヴィッド・バーンの伸びやかな歌声。

この独創的にして個性的な音楽は今聞いても全く古臭く感じる事がありません。

如何様にも取れる様な抽象的なバーンの歌詞は、

時代を越えた説得力と中毒性があります。

そして何よりも魅力的なのは彼等のライブパフォーマンス。

バーンの奇怪なダンスパフォーマンスも勿論目を引きますが、

その演奏技術の高さと表現力、

観客をどこまでもアゲていくテンションは筆舌に尽くし難いものがあります。

映画を観る我々も一体何が起こるのだろうかというドキドキ感でいっぱいになり、

彼等のパフォーマンスに一緒に体を動かさずにはいられなくなります。

その場の空気を漏らさず伝えてくれるジョナサン・デミ監督の演出も見事です。

そもそも脈絡の無い音楽の羅列の筈なのですが、

トーキング・ヘッズの音楽にはどこかストーリー性を感じさせるものがあり、

それをまた一流の映画監督が映し取る事でそこに強烈なカタルシスが生まれるのです。

それは観る者一人一人形の違う物語であり、

まさに芸術の自由性を象徴する様な「体験」そのものなのです。

腹を満たせ

今日のおつまみは【焼き飯】です。

おつまみに「意味」を持たせるのはやめにしましょう。

そこにあるのはただシンプルに腹を満たすという目的のみ。

そして酒を味わう為に寄り添う事。

後はただ感じるままに掻っ込むのみ。

具もシンプルに卵・ピーマン・ウィンナーのみ。

お酒の〆に物足りない心を満たすもの。

それが焼き飯。

ストップ・メイキング・センス

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映画のタイトル【ストップ・メイキング・センス】とはどんな意味なのでしょうか?

「ガールフレンド・イズ・ベター」という楽曲の歌詞の一部なのですが、

「意味を持たせようとするのは、もうやめろ!」という様なニュアンスの言葉なのです。

それはデイヴィッド・バーンの歌詞の世界にも、

芸術や音楽や私達の存在理由にも、

「意味」を持たせる事に何の価値も無いという強烈なメッセージになっています。

「意味」が無いからこそ「価値」がある。

そこに理知的な考えや、経験則から導き出される答えなど必要無く、

ただ興奮に身を任せ、体を動かし、音楽にひたすら没入する。

その先にこそ生きる事の喜びがある筈だという非常にパンクなメッセージなのです。

兎角世の中は「意味」を問います。

行動の意味、思考の意味、生きる意味。

しかし元来意味なんて無くても一向に困らないのでは無いでしょうか。

そうすれば無駄にぶつかり合う事も無いのです。

考える事よりも感じる事の重要性。

その原始的な「価値」に近付いた音楽だった様な気がします。

正に体で感じるという「体感」というやつです。

音楽と映像の奇跡の融合を体感したい時に観る映画。

古今東西あらゆる芸術において「意味」を排除したシュールレアリスムがありました。

現実的な「意味」「意図」から逸脱し、

先入観から解放された超現実主義的なムーブメント。

デイヴィッド・バーンの歌詞の世界は聴く者の深層心理に直接語り掛ける様です。

「ストップ・メイキング・センス」

意味を捨てろ!

既成のロックミュージックから新たな時代への過渡期に登場した、

刺激的で先鋭的だった嘗ての若者も現在は70代を迎え円熟の極みに至りました。

2020年にスパイク・リー監督が発表した【アメリカン・ユートピア】での、

時を越えたデイヴィッド・バーンのパフォーマンスもまた超絶に素晴らしいので、

是非合わせて鑑賞する事をおススメ致します。