コメディ映画

映画【ロブスター】おつまみ【海老のペペロンチーノ・スパゲッティ】

画像引用:©2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.

この映画はこんな人におススメ!!

●シュールな世界観が好きな人

●ディストピアの恐ろしさを体験したい人

●孤独について改めて考えたい人

●人生の意味についても考えたい人

タイトルロブスター
製作国ギリシャ、フランス、アイルランド、
オランダ、イギリス
公開日2016年3月5日(日本公開)
上映時間118分
監督ヨルゴス・ランティモス
出演コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、
レア・セドゥ、ベン・ウィショー、
オリビア・コールマン、ジョン・C・ライリー
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映画の新しい可能性を体感したい時に観る映画

今回の映画はまた中々の変わり種になっています。

今作は第68回カンヌ国際映画祭において審査員賞を受賞。

監督のヨルゴス・ランティモスはその後2023年の【哀れなるものたち】で、

ヴェネツィア国際映画祭において金獅子賞を受賞しています。

独特の世界観を構築し、その中で人間の剥き出しの姿を辛辣に描いていく作風。

一見シュールで掴み所の無い様な不穏な雰囲気を醸し出しながら、

人を喰った様なブラックユーモアで圧倒的なカタルシスを描き出す手法。

非常に挑発的な作家であると言えます。

近年は映画界においても多様な作家性を持った監督が躍進していて、

スウェーデン出身のリューベン・オストルンド監督や、

中国出身のクロエ・ジャオ監督など映画大国以外の特出した才能が目立つ様になりました。

所謂ハリウッドの伝統的なスタイルとは一線を画したオリジナリティを持った作家の

希少価値が嘗てない程に注目されてきていると感じます。

映画はテレビやゲームなどの後発のメディアに常に脅かされてきました。

新しい物に飛びつく大衆心理を繋ぎ止める為に試行錯誤してきたのです。

現在はyoutubeやtiktokなどのネットメディアの脅威に晒される中、

それらと差別化するのにはやはりコンテンツの

クオリティを高めるしか方法は無いのではないでしょうか。

そこで新しい世代の常識に捉われない自由な感性。

それを映画界に注ぎ込んで貰う為にもあらゆる国のあらゆるジャンルの才能を、

世界に発信していくのが映画界の火急の課題であるようです。

その意味でも今作品は映画ファンにとっては重要な作品になってくるのです。

これまでの常識を超えた発想と展開。

新しい時代の映画の可能性を示唆してくれている作品なのです。

どこまでもリアルな悪夢

画像引用:©2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.

物語は独身であることが「罪」である様な世界。

独り身の大人はあるホテルに監禁され、

45日以内にカップル成立しないと動物に変えられてしまいます。

これは中々に辛辣なディストピア設定です。

人間の根源的な要素である「愛情」について非情なシステム化が敷かれています。

疑問を挟む余地も無く、この世界では既にこのシステムは当然の事の様です。

この奇妙な設定が既成事実として語るまでも無いスタンダードと扱われている所から

物語がスタートするのがまた人を喰った様なユーモアで面白いですね。

主人公は妻に捨てられたうだつの上がらない中年男性。

元々は兄だった犬を連れてホテルに収容されます。

まるでシュールで笑えないオリエンテーションの様な集団生活。

しかし周りの収容者達はその奇妙な状況に疑問を持たずに順応しようとしています。

我々観客は当然この奇怪な世界に嫌悪感や拒絶感を抱く訳ですが、

そんな事はお構いなしに至極真面目に物語は進み、

そのシュールさは加速していきます。

監督は特に肩肘張った演出でこの世界を我々に飲み込ませようとするのでは無く、

淡々と当たり前の事実を並び立てる様に語っていきます。

すると不思議と我々にも段々「慣れ」というものが発生してきて、

あまりこの世界を奇妙に感じなくなっていってしまうのです。

まるで「夢」の中でどんなに不思議な事が起きていても、

特にそれに頓着せずに行動している時の様な感覚に近い気がします。

このリアルな「悪夢」はどんどん現実性を高めていってしまうのです。

この辺りの作りが規制のハリウッド映画には無いニュアンスの様な気がします。

ランティモス監督の物語作りの巧さは、徹底的にリアルな手法で圧倒的なシュールを描く。

観客の欲しい物を熟知したバランス感覚によって、

どんな世界観でもリアルなものとして描く事が出来る錬金術師の様な演出家なのです。

小海老の底力

今日のおつまみは【海老のペペロンチーノ・スパゲッティ】です。

映画がロブスターなので伊勢海老を具材にと思ったのですが、

勿論そんな贅沢は出来ません。

細やかながらも、小海老とシラスの出汁がオイルと乳化して、

絶妙な味わいになっています。

キリっと冷えた白ワインとピッタリマッチします。

「愛」を制御することは可能か

画像引用:©2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.

主人公の男はホテルでの残り日数が少なくなっていくにつれ、

偽りの「愛」によって難局を逃れようとします。

しかし自分自身を捨て切る事が出来ずにドロップアウトします。

奇妙な共同体の「外」の世界には、

「愛」を禁じたレジスタンス達が存在しました。

「動物」に変えられる事無く「独身者」として生きる人間達。

主人公の男も「愛」を捨てる事で「人間」であり続けようとしたのです。

しかしそこで出会ったある女性に好意を持ってしまいます。

またも「自分」という個を捨てる事が叶わなかったのです。

法律や社会の慣例によって自分の本来的な趣向を殺せるのか。

従う事とあがなう事の狭間で、

男は「自分」というものに苦悩していきます。

「自分」というものが分からないから妻に捨てられ、

誰ともカップルになれず、

どこにも居場所が無かったのです。

社会から隔離されるのは辛い事だが、

自分を曲げてまでシステムを迎合する事も出来ない。

これは誰しも覚えがある様な事なのでは無いでしょうか。

「愛」というものを禁じたり強制したりする事は結局は出来ないのです。

それは謂わばヒューマンエラーの様なものなので、

理屈でも無く損得でも無く、システムの範疇からこぼれ落ちた状態そのものなのです。

動物に変えられるのなら「ロブスター」を選ぶと言った主人公。

彼のどこか厭世的なキャラクターを激情的な「愛」に走らせたものも、

システムエラーが起こしたほんの些細なバグの様なものなのかも知れません。

映画の新しい可能性を体感したい時に観る映画。

世界中の映画ファンを唸らせたこの作品は、

表面上の不思議な世界観とは裏腹に根源的な命題を語った物語だと思います。

人は「愛」に従順になれるのか?

そしてそれを人は制御し得るのか?

答えは映画を観た一人一人の心にのみ、

そっと訪れるのでは無いでしょうか。

ちょっと普通の映画に飽きてしまったなという様な方には是非おススメの作品です。

安心して頂きたいのですが、特に難解な映画ではありません。

むしろ滅茶苦茶笑える映画だったりします。

私は今作を最高のコメディと受け取りました。