画像引用:© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
こんにちは!ころっぷです!!
今日の映画は【ミッキー17】です。
2019年の【パラサイト 半地下の家族】で映画史に名を残した、
韓国の巨匠ポン・ジュノの最新作となるSFコメディ。
特異な設定に驚愕の映像、
シニカルな社会風刺に極上のエンターテイメント性。
期待を裏切らない捻くれた作品で
またしても観客を強烈に引き込んでくれました。
この映画はこんな人におススメ!!
●ダークなSF映画が好きな人
●シニカルなユーモアセンスのある人
●人生をやり直したいと思う人
●辛い環境で働いている人
タイトル | ミッキー17 |
製作国 | アメリカ |
公開日 | 2025年3月28日(日本公開) |
上映時間 | 137分 |
監督 | ポン・ジュノ |
出演 | ロバート・パティンソン、ナオミ・アッキー、スティーヴン・ユァン、マーク・ラファロ、トニ・コレット |
人生をやり直したいと思った時に観る映画
作品毎に物議を醸す韓国のポン・ジュノ監督。
今作も相当に捻くれた設定と展開で私達の思考を悩ませてくれます。
2013年のハリウッド進出作品【スノーピアサー】を彷彿させる様な、
悪夢の様なダークファンタジーの世界。
来たる未来が良い結果にならなかったバージョンのSF作品の定石として、
人類の置かれている状況はやはり心躍るものでは無い様です。
前作の【パラサイト 半地下の家族】が規格外の成功を収めた事により、
やはりその次回作に対する期待値は半端無かったでしょうし、
何を作っても前作と比べられてしまうプレッシャーも
相当なものであったと想像出来ます。
しかしそこは凡百のクリエイターとは一線を画すポン・ジュノ監督。
我々の想像を遥かに凌ぐ人を喰った様な作品でしっかりと驚かせてくれています。
彼の作品に通底する社会的弱者による逆襲。
激しい競争社会の韓国に於いて、
そこから落ちこぼれた人間達にスポットを当てたドラマ作りは今作でも健在です。
誰しも人生をやり直したいと感じる事の一度や二度はあるでしょうが、
強制的に17度もそれを繰り返される主人公という突飛な設定。
人類の発展の為に使い捨てられる命。
史上最低のブラック企業での過酷な労働を強いられた主人公の逆襲。
社会問題に独自の切り口で迫るポン・ジュノ監督の、
ブラックユーモアに彩られた会心のエンターテイメント作品に仕上がっています!
逆行の時代

画像引用:© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
物語は人類が他惑星に植民地を求める近未来が舞台。
うだつの上がらない主人公ミッキーは、
規約書の意味も良く分からないままにとある契約を結んでしまう。
それは植民地となる惑星での危険な仕事を一手に引き受ける、
使い捨て人間としての任務。
彼は何度も死に、その都度巨大なプリンターの様な機械で再生させられる。
まるで複合印刷機でコピーを取る様に、
ミッキーは何度も生まれ直す。
時には惑星のウィルスの抗体を体内で生成するまで感染させられ続ける。
正に人類の発展の為の消耗品です。
ここで描かれる世界は現代とは比較にならない程の格差社会。
それは時代を逆行したかの様な封建的な世界とも言えます。
権力を握るのはテクノロジーを支配した富裕層。
GAFAMを彷彿とさせるテック企業が倫理の壁など軽々越えて、
あらゆる技術を発展させた未来には、
こんな状況もあながちあり得ない話では無いのかも知れません。
いつの世も少数の犠牲は大義の前では至って軽いものです。
ミッキーを消費する事に周りのエンジニア達も無関心で、
その扱いもかなり雑な所が実に恐ろしい描写になっています。
社会の歯車が円滑に回る為の潤滑油として、
弱い者はいつの世でも戦場に散る一兵卒の如く簡単に使い捨てられていく。
ポン・ジュノの痛烈な風刺とも言えるこの社会構造の誇張こそが、
本来のSF作品の存在意義と感じられたりします。
こんな事ある訳無いじゃんと思いつつも、
でもよく考えたら今だって似た様な事起きているよなって感じの事です。
何度も生まれ直す様子はゲームの中で何度もキャラクターが復活するのと似ていますが、
その都度痛みや恐怖の記憶も蓄積されていくのが想像すると本当に恐ろしいです。
おつまみの永遠ループ

今日のおつまみは【サムギョプサル】です。
言わずと知れた韓国料理の定番メニューですね。
豚バラ肉とキムチをサンチュで巻いて(今日はサニーレタスですが)
ビールで流し込み、また新たにお肉を巻いて・・・
という様な永遠のループに突入する幸せなおつまみです。
何だかんだ言ってもお肉が好き。
これはもう何度人生を生き直そうと不変ですね。
システムエラーによる成長物語

画像引用:© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
ミッキーという存在は実に暗喩的なキャラクターです。
死んでも生き返るというのとは違って、
ましてやクローンとも違ってリセット・リトライの連続体なのです。
普通一度きりの人生ですから私達にはあらゆる限界というものがあります。
生から死へは不可逆なものであり、
また死があるからこそ生に執着する。
しかしこの主人公にそれは必要なく、
至って無気力で不感症的に死を繰り返すのです。
虚ろな目で、半開きの口で、薄笑いが染着いた間抜けな顔で。
それがシステムエラーによって変わっていくというのがこの映画の肝なのです。
死んだと思っていたミッキー17が実は辛うじて生きていて、
それを知らずに既にミッキー18がプリントされてしまっている。
同時に二人のミッキーが存在し、
しかもミッキー18の方は元のミッキーとは似ても似つかない強気な性格をしている。
言うなれば別人格なのです。
しかしその事によってミッキー17の方も少しづつ変化していく所が秀逸。
それまでの無気力に死を繰り返していた自分の人生に疑問を持ち始める。
自分とは正反対のミッキー18が生に執着するのに影響されて、
彼も自分の運命に歯向かおうとするのです。
ここにポン・ジュノのテーマである弱者の反逆があります。
圧倒的資本力で市民を愚鈍化され従わせる権力者達。
まるで某合衆国の某大統領の様な支配者層にとって、
最も手強いのが結託した弱者達。
飼い慣らされて自分の人生にリアリティを持てなかった若者達が、
虚構の世界をぶち壊して新しい秩序を見出す様は、
実に痛快で極上のカタルシスを与えてくれます。
負の歴史を繰り返してきた私達人類にとって、
必要なのは永遠の命では無く今を変える為に掛ける事の出来る命。
人生をやり直したいと思った時に観る映画。
SFとは絵空事ではなく現実を映す鏡の様なもの。
真意定かでは無い情報に踊らされている現代人にとって、
想像力を刺激してくれるフィクションの効用は決して小さくは無いと思います。
映画の世界に於いては、
今作のポン・ジュノや【インターステラー】のクリストファー・ノーラン監督、
そして嘗てのスタンリー・キューブリック監督やアンドレイ・タルコフスキー監督の様に
鋭い作品で時代に警鐘を鳴らしてくれる様なクリエイターの存在は
非常に貴重だと思います。
是非、ご自身の目と想像力で今作を確かめてみて下さいませ!