サスペンス映画

映画【ウインド・リバー】おつまみ【鶏ササミと人参のサラダ】

画像引用:©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC.  ALL RIGHTS RESERVED.

この映画はこんな人におススメ!!

●アメリカ社会の闇を垣間見たい人

●白銀の世界を体感したい人

●法で裁けない罪に鉄槌を下ろしたい人

●極限の環境下を体験したい人

タイトルウィンド・リバー
製作国アメリカ
公開日2018年7月27日(日本公開)
上映時間107分
監督テイラー・シェリダン
出演ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、グラハム・グリーン、ギル・バーニンガム

アメリカという国について改めて考えたい時に観る映画

2026年、アメリカ合衆国は建国250年の節目を迎えます。

独立戦争の末にイギリスから独立してアメリカ合衆国は誕生した訳ですが、

それから更に遡ればイタリアの航海士コロンブスが大陸に足を踏み入れたその瞬間から、

アメリカの負の歴史は始まっていたのです。

ヨーロッパ人から見れば新大陸ですが、勿論そこには先住民が多くいた訳です。

彼等は全てを奪われ、殺され、邪魔者扱いされ、

現在もその多くの子孫達が保留地に隔離され生活しています。

この映画の舞台のウインド・リバーも、

ワイオミング州に存在する全米で7番目の大きさの保留地だそうです。

真冬にはマイナス30度にも達する程の雪深い僻地。

作物も育たない様な荒野と深い山岳地帯に、

まるで邪魔者を追いやる様に彼等を囲い込んだ訳です。

そんな背景にこの映画の問題の根深さの一端を知る事が出来ます。

今作の脚本・監督を務めたテイラー・シェリダンは、

2015年公開のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品【ボーダーライン】の脚本で注目を集め、

2016年の【最後の追跡】ではアカデミー脚本賞にノミネートされました。

アメリカの民族間の軋轢や歴史に根差したテーマを多く描いていて、

それが今作のネイティブアメリカン保留地の問題にも通じています。

アメリカンファーストを強く押し進める一方で、

そこから排除された多くの者達の声が無視されていく現状。

負の側面に蓋をし続けてきたアメリカ社会の現実。

分断が進む今の世にあってこそ考えるべきなのは歴史では無いでしょうか。

「フロンティア精神」という聞こえの良いフレーズがもたらした結果を、

改めて考えさせる骨太のサスペンス映画になっています。

苛烈な環境が生み出す人間の狂気

画像引用:©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC.  ALL RIGHTS RESERVED.

物語は一人の少女が極寒の雪山を裸足で駆けるシーンから幕を開けます。

圧倒的な大自然を前に人は余りにも無力であり、

儚い命が残酷にも奪われてしまいます。

一体なぜ彼女は死んだのか?

事件の捜査にやってきたFBIの新人捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)と、

地元の野生生物局でハンターをするコリー(ジェレミー・レナー)が、

現場に残った足跡から次第に事件の真相に迫っていくというストーリー。

検死の結果、彼女の死因はマイナス30度にも達する雪原を裸足で走り続けた事により、

肺の中まで凍ってしまい自分の吐いた血で窒息してしまったという事が分かります。

これによって殺人事件としてFBIの応援を呼ぶ事が出来ないジェーンは、

コリーの助けを借りて独自で捜査するしかなくなってしまうのです。

法律が行き届かない様な無法状態にある保留地。

厳しい環境に鬱屈した人々の多くは、

ドラッグやアルコールに溺れ犯罪率も異様に高い。

人里離れた山奥の僻地は犯罪者や逃亡犯達の潜伏地となっているケースもあるそうです。

経済発展を遂げ絶大な軍事力で一等国となったアメリカという国が、

その内部に隠し持っているのがこういった負の歴史の遺産なのです。

凶悪犯罪が頻発する保留地内にあって、

コリーもまた最愛の娘を3年前に同じ様な事件で失っているのです。

それにより深い悲しみと怒りを抱えたコリーは、

事件の容疑者達に法では無く独自の制裁を加える事を胸に秘めています。

環境が人間に狂気を生み出す事は現実にあるのかも知れませんが、

それに屈する事無く正しく生きる人間達もまた存在する。

この映画が描く罪と罰のテーマには、

歴史や環境に屈する者と屈しない者との対比が強く表現されているのです。

おつまみの保留地

今日のおつまみは【鶏ササミと人参のサラダ】です。

季節の変わり目の体調を整える為に、

肉食中心の我が家の食卓にも、

色鮮やかな野菜を乗せて頂きました。

キャベツサラダの上に鶏ササミのボイルを散らし、

茹で人参を潰した中にツナを入れたサラダトップで色合いと食感を演出。

食物繊維とタンパク質の取れる美味しいサラダの出来上がりとなりました。

オマケに大好物の茹で玉子もトッピング。

胡麻系のドレッシングがよく合う様です。

憂国の士の果て

画像引用:©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC.  ALL RIGHTS RESERVED.

私達は普段、自分達の生活がどんな犠牲の上に成り立っているかについて、

考えを巡らせる事など殆どありません。

皆それぞれが必死に生きている訳ですし、

人の道から外れてしまった者達が罰を受ける事も至極当然だと考えます。

しかし日常が非日常に思いもかけずシフトしてしまったその時、

私達は初めてそれまでの生活が如何に恵まれていて、

奇跡的であったのかを思い知らされるのです。

どうしてそんな事が起きてしまったのか?

そのクエスチョンには答えがありません。

当事者達は永遠に答えの無い問いを繰り返すのです。

娘を失った過去を持つコリーもこの問いを反芻し続けています。

その為に自分の感情を殺し、与えられた仕事に没入します。

しかし彼にもう一度その問いと向き合う機会が訪れる。

彼にとってそれは「不運」や「不幸」に立ち向かう事では無く、

「弱さ」を克服し「強く」あろうとする戦いに他ならないのです。

それは人生とは強さの中にしか価値が無いという悲しい意思でもあるのですが、

絶望を経験した彼にとっては、

自分の「不幸」を歴史や環境の所為にして逃げるのでは無く、

怒りや憎しみに駆られるのも厭わずに前に進む唯一の方法であったのです。

生きる為に人をも襲う獣達と常に対峙するハンター。

コリーは命のやり取りの中で自分の責任の元に答えを手繰り寄せようと藻掻くのです。

どうして生きるのかでは無く、

生きるにはどうするべきかと。

その覚悟がこの登場人物を実に人間らしく高尚にさせているのだと思います。

アメリカという国について改めて考えたい時に観る映画。

人間の歴史はそのまま殺し合いの歴史でもあります。

戦争は大義の元、殺人は自益の元に他者の命を奪うのです。

先住民から土地を奪い、戦争で独立を勝ち取り、民族間の対立を煽り、

アメリカという国は晴れて建国250年を迎えます。

愛国心とは本当に難しいもので、

多視点で事実をしっかりと見据えた上で、

それでも自分の生まれ育った国に誇りを持ち愛するべきだと思います。

それは決して排他的な考えに立った独断であってはなりません。

私達日本人も自分達の国の歴史をもっと知るべきです。

良い面も悪い面も正面から捉えるべきです。

そうして初めて「強さ」の中から「優しさ」が生まれてくるのでは無いでしょうか。

重く難しい映画を観て、

柄にも無くこんな事を考えてしまって何だか疲れてしまいましたが、

兎に角素晴らしい映画なので是非ご覚悟を持ってご鑑賞下さい!