画像引用:©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma
こんにちは!ころっぷです!!
今日の映画は【落下の解剖学】です。
2023年制作のフランスのサスペンス映画。
第76回カンヌ国際映画祭において見事にパルム・ドールを受賞した作品です。
第96回アカデミー賞でも脚本賞に輝いています。
夫の死の嫌疑を掛けられた小説家の妻。
その落下事件の目撃者は目の見えない一人息子のみ。
事実と真実の曖昧さを見事な法廷劇で表現した、
緊迫の展開が強烈に観客を惹き込んでいきます。
この映画はこんな人におススメ!!
●法廷物が好物な人
●物語の中の暗喩性に惹かれる人
●人間の暗部に興味がある人
●何が真実なのか、自分なりの解釈を試みたい人
タイトル | 落下の解剖学 |
製作国 | フランス |
公開日 | 2024年2月23日(日本公開) |
上映時間 | 152分 |
監督 | ジュスティーヌ・トリエ |
出演 | ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、 ミロ・マシャド・グラネール |
自分なりの解釈を鍛えたい時に観る映画
この作品もカンヌ好みの映画の例に漏れず、
賛否別れるちょっと厄介な類の作品になっています。
映画に限らず全ての表現媒体に言える事ですが、
そもそもが好き嫌いで判断されるという事が大前提なので、
当たり前ですが誰もが面白いと思えるような絶対的作品はこの世に存在しません。
しかし敢えて言わせて頂けるのならば、
世間一般の流行に沿った画一的なフォーマットに、
満足出来ない様になってしまったとしたら是非とも今作をおススメしたいのです。
この映画には与えられた答えを拾っていく作業では無く、
自分自身で解釈を構築していく「手間」を強要してきます。
自分の価値観で物語の意味する所を「創造」するのです。
そんな面倒な事御免だという方は回れ右でお帰り下さい。
そういう方向けの作品もこの世には有り余る程あるのですから。
そして極少数の自分の解釈を鍛えたいという方だけどうぞご鑑賞下さい。
きっと今までとは少し異なる映画体験が出来るはずです。
そもそも何かの表現に触れるという事は、
そんなスリリングで緊張感を持って接する様な物でもあった筈です。
観客である我々自身に変化が起こる様なエンターテイメント。
きっと今作が唯一無二の問題提起を果たしている事を、
身を持って体験出来る筈です。
人は見たいものだけしか見ずに生きている
画像引用:©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma
物語は雪山の山荘で起きたある男の転落死から端を発します。
目撃者の無い謎に包まれた事故は、
やがて殺人事件として捜査が進んでいき妻であるサンドラが逮捕されます。
サンドラは容疑を否定しますが、
裁判の証拠品として夫がUSBに残していた前日の激しい夫婦喧嘩の録音が出てくる。
夫婦関係のもつれから衝動的な殺人に発展したと検察は執拗にサンドラを追求します。
夫婦には11歳の息子がいるのですが、
彼は過去の交通事故によって視力を失っています。
事件の唯一の証人である彼が「見る事が出来ない」という事がこの脚本のミソです。
映画は殆どのシーンが法廷での質疑応答なのですが、
サンドラの犯行を立証しようとする検察官も、
それを弁護しようとする弁護士も、
それぞれがそれぞれの見たいものしか見ようとせず、
勝手な解釈で事件を物語っていくという裁判制度の
大きな矛盾が浮き彫りになっていきます。
一体真実はどこにあるのか?
これは殺人なのか?事故なのか?自殺なのか?
次々と明らかになる夫婦の間にあった亀裂。
しかしそれも観る者の主観によって如何様にも受け取れる事実の側面でしか無いのです。
完璧な人間なんてこの世に存在しないのですから、
一度疑いの目で見たらその人物は限りなくクロに見えてしまうもの。
そもそもが真実を知るのは嫌疑を掛けられた被疑者のみ。
裁判とは有罪・無罪のどちらがもっともらしく感じられたかという、
「印象」で決せられる矛盾に満ちたシステムでもあるのです。
ここに男女間の差別、職業的な優越、世間一般の通底意識が複雑に交錯し、
人々の好奇に晒される滑稽な法廷劇となっていくのです。
おつまみの解剖学
今日のおつまみは【豚バラソテーのクリームソース】です。
クリスマスディナーらしい一皿。
こんがりと焼き上げた厚切りの豚バラに、
濃厚なクリームソースを掛けました。
何がおつまみの真実なのか。
好みも人それぞれだと思いますが、
おつまみも自分で決断する事が大切なのです。
やっぱり肉が食べたい!
これはビールでもワインでも合う一品でした。
新しい世代への微かな希望
画像引用:©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma
事件には物的な証拠がありませんでした。
全ては状況的な推測からの嫌疑。
或いは先入観から導き出された安易な筋書きでしかありません。
そしてこの映画は事件の真相を最後まで明らかにはしません。
それは我々観客に投げられたボールであり続けるのです。
無論何をどう論じてもそれで答えが出るものではありません。
真実はそこではあまり重要では無く、
つまり我々が何を根拠にして何を信じるかという事について語っている作品なのです。
例えば国と国との戦争。
それぞれに思惑があったり正義を主張し合ったりする訳です。
それについて真実を明かす事は残念ながら誰にも出来ません。
ただそれぞれの価値観とロジックでそれを論じる事しか出来ないのです。
つまりどちらに与するかという事は我々一人一人が決断しなければならない。
落下の解剖とは事件の真相を明らかにする行為では無く、
それに対して我々が下す決断に至る過程を晒すものなのです。
映画では目の見えない一人息子のダニエルが、
その決断の岐路に立たされます。
母親を信じるのか否か。
彼が下す決断に微かな希望が感じられるのは、
新しい世代が不毛な真実への道程に対して、
自分の責任に於いて拒否する事が出来たからだと思います。
人はそれが正しい事だと信じた時にだけ動きます。
しかし彼はその正否を排して自分の道を選択しているのです。
それがどんな結果をもたらすかは勿論神のみぞ知るなのですが。
自分なりの解釈を鍛えたい時に観る映画。
今回はある意味難解な映画であると言えます。
しかし事件の真相を自分なりに解釈する事で、
与えられた答えでは終わらない思索を体験する事が出来る稀有な作品でもあります。