アニメーション映画

映画【化け猫あんずちゃん】おつまみ【コロッケ】

画像引用:©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

この映画はこんな人におススメ!!

●ファンタジー設定のアニメーションが好きな人

●だがしかしリアルな世界観も欲しい人

●田舎の夏休みの雰囲気を味わいたい人

●子供と大人の狭間の時間を思い出したい人

タイトル化け猫あんずちゃん
製作国日本、フランス
公開日2024年7月19日(日本公開)
上映時間94分
監督久野遥子、山下敦弘
出演森山未來、五島希愛、
青木崇高、市川実和子、宇野祥平

誰かに傍にいて欲しい時に観る映画

今回はどこか昭和の懐かしい雰囲気が漂うアニメーション作品のおススメです。

俳優の演技を撮影した映像をトレースしてアニメーション化する、

「ロトスコープ」という手法で制作された今作。

実写映画監督の山下敦弘監督演出の元、

主演の森山未來等俳優達が実際に演じたキャラクターの動きや表情や声によって、

従来のアニメーションには無いリアルで滑らかな存在感を実現しています。

キャラクターの動きに合わせてアフレコで声優が声を乗せる方法に比べ、

生身の人間が動きと共に演技するので会話の間合いが実に自然なのです。

アニメーションと言えども荒唐無稽の中にリアリティは必要なもの。

今作は化け猫が主役のファンタジー作品ではあるものの、

日常の機微を丹念に描いた人間ドラマも魅力の物語なので、

キャラクターの感情表現を最大限に活かせる「ロトスコープ」は

とても相性が良かった様です。

アニメーション部分の演出に当たった久野遥子監督は、

2015年公開の岩井俊二監督作品【花とアリス殺人事件】でも

「ロトスコープ」の経験がありその技術を進化させています。

更に背景美術と色彩設計は2022年公開の【めくらやなぎと眠る女】で

高い評価を受けたフランスのMiyu Productionsが手掛けています。

色鮮やかな背景は観ているだけで見惚れる程美しく、

淡い質感はノスタルジックで情感たっぷりです。

世界中の才能が集結し、丹念にワンカットずつ重ねた極上の映像。

その完成度の高さは正に驚愕の出来栄えです。

ひと夏の冒険

画像引用:©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

物語の主人公は化け猫のあんずちゃん。

寺の和尚に拾われてから何と30年以上、

今では原付バイクで按摩の仕事に通う中身は完全におっさんの猫。

そこへ寺の一人息子である借金取りから逃げて来た哲也と、

その娘の小学5年生の少女かりんがやってくる。

かりんを置いて父親はまたどこかへ消えてしまったので、

和尚から命じられあんずちゃんはかりんの世話役に。

要領よく周りの人間達を次々に懐柔するかりんの腹黒さに、

あんずちゃんは呆れた体なのであったが、

かりんの強がりの裏には死んだ母親に会いたいという寂しさがある事に気付いた末に、

何と地獄まで母親を探す旅に出て大騒動を起こすというストーリーなのです。

実に荒唐無稽でファンタジー設定なのですが、

世界観や演出はシュールで昔懐かしいギャグ漫画の雰囲気で、

ドタバタであるけれど妙に達観した様な落ち着きもある作風。

よく言えば見た事の無い様なバランス感覚を持った不思議な作品なのです。

こまっしゃくれた少女の危うさと、

孤独な心の内が暴走する展開は王道の児童冒険物語の様なのですが、

化け猫の存在が余りにも当たり前にそこかしこにあるので、

非現実がその都度観る者の感情の構築を嘲笑う様で、

絶妙な笑いに転化されていく様が癖になってしまうのです。

化け猫以外にも貧乏神や大蛙や地獄の閻魔など、

強烈かつ滑稽なキャラクター達が次々と現れては場をシュールにしていくのが、

見る程に物語の縦軸と相まって重層的に楽しませてくれます。

素朴な味こそ御馳走

今日のおつまみは【コロッケ】です。

老若男女問わず全人類の大好物です。

これは嫌いな人などいる訳が無い。

国民栄誉賞を与えたいおつまみNO1です。

今回は実家の両親が畑で収穫したジャガイモで柔らかめに作ったタネ。

丁寧に衣を纏わせカラッと揚げれば、

素朴ながら最高のおつまみになってくれます。

そしてこれがまた白米にも抜群に合う。

お腹パンパンの幸せを味わいました。

ただ寄り添うだけの存在

画像引用:©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

化け猫のあんずちゃんには特別な力はありません。

30年以上生きた妖怪の類なのでしょうが中身は殆どただのおっさんです。

こじらせ問題児のかりんにとっては鬱陶しい節介焼きといった所なのですが、

あんずちゃんは猫だけに何もせずとも常に寄り添ってくれる存在なのです。

ペットと暮らしているとよく分かるのですが、

彼等は私達の為に生きている訳では無いのですが、

何の忖度も無しにただ寄り添ってくれます。

それが何より無償の愛の様で私達は彼等の事が愛おしくなってしまうのですが、

憎たらしい様なあんずちゃんもかりんに対して無条件で

寄り添う所は似ている様な気がします。

孤独な若者にとっては、

自分を無理に理解しようとしてくる存在よりも、

ただ寄り添って一緒に居てくれる者の方が有難いという事もあります。

母親を亡くし父親に置いて行かれ、

誰にも理解されず周りの全てがくだらなく見えてしまう様な時期。

下品でいい加減でデリカシーの無い化け猫でも、

自分の傍に寄り添ってその存在を見守ってくれたあんずちゃんが、

かりんにとって掛け替えのない存在になっていくという物語なのです。

誰かに傍にいて欲しい時に観る映画。

難しい年頃は誰にも覚えがある筈です。

そんな時良かれと思い、「ああしろ、こうしろ」と言ったり言われたり。

それは他人と付き合っていく上では避けては通れない事なのかも知れません。

しかし時に犬や猫の様に、

気持ちを理解なんてしてくれなくっても良いから、

自分の方を見て傍にいてくれる存在。

それがその人の気持ちの支えになって強くしてくれる事もある。

それが地獄まで付き合ってくれる様な化け猫だったら更に最高ですよね。

美しい田舎の原風景の中で、

心に闇を抱えた少女と化け猫のひと夏の冒険譚。

複雑な人間の感情の機微を丁寧に描いた、

日本アニメーションのお家芸の様な作品でもあります。

子供は勿論大人が観ても大切な事を教わる事が出来る映画です。