恋愛映画

映画【イングリッシュ・ペイシェント】おつまみ【おろし厚揚げ】

画像引用:(C)1996 Tiger Moth Productions, Inc.

この映画はこんな人におススメ!!

●許されぬ愛に溺れたい人

●エキゾチックな景色が観たい人

●戦争に翻弄された人達の物語を目撃したい人

●人間の尊厳について考えたい人

タイトルイングリッシュ・ペイシェント
製作国アメリカ
公開日1997年4月26日(日本公開)
上映時間162分
監督アンソニー・ミンゲラ
出演レイフ・ファインズ、クリスティン・スコット・トーマス、
ジュリエット・ビノシュ、ウィレム・デフォー、コリン・ファース

許されぬ愛に溺れたい時に観る映画

今回はこれぞ映画の王道という様な大作のおススメです。

ハリウッド映画の技術の粋を集結した大規模な撮影。

豪華俳優陣による迫真の演技。

戦争下の人々の生活を丹念に描いたディティール。

そして観客の関心を引き続ける「謎」に迫る巧みな脚本。

アカデミー賞9部門を始め世界中で映画賞を総ナメにしたのも納得の、

ハイレベルな恋愛叙事詩になっています。

監督は2003年の【コールドマウンテン】でも高い評価を受けながら、

2008年に54歳という若さで亡くなってしまった名匠アンソニー・ミンゲラ。

このロマンチックな物語において、感傷的になり過ぎず品性を保ちながら、

圧倒的に登場人物に感情移入させる演出は見事の一言です。

それぞれに立場や目的がありながら、複雑な時勢の中であっても、

許されぬ激しい愛に溺れていく人々。

美しくも過酷な砂漠の景色。

戦争によって無惨にも蹂躙される運命。

正にドラマチックの極みとも言える壮大な物語は、

微かな希望を抱かせる結末の余韻と共に、

我々の心に「記憶」としていつまでも残っていきます。

運命の恋

画像引用:(C)1996 Tiger Moth Productions, Inc.

物語は第二次世界大戦末期のイタリアを舞台にしています。

飛行機事故によって全身に火傷を負った身元不明の患者を、

崩れかかった修道院跡で看止る為に世話を焼く看護師。

そこへ流れ着く謎の男。

そして爆弾処理の任に就くインド系の兵士。

忘れ去られた様な戦場の片隅で奇妙な共同生活を送る事となった4人のそれぞれの思惑。

そして英語を話す事から「イングリッシュ・ペイシェント」と名付けられた謎の患者。

彼は看護師の献身的な看護を受ける内に次々と過去の記憶を蘇らせていきます。

サハラ砂漠で地図の作成をしていた考古学調査団の一人だった彼は、

その一員の新婚の妻に恋心を抱きます。

やがて過酷な調査の中で互いに惹かれ合った二人は許されぬ愛に堕ちていきます。

この激動の時代背景と舞台設定。

そして品性と知性に溢れる二人だからこそ、

愛に溺れる様の激しさと切なさが際立ってくるのです。

ごく短い時間の中での、人目を忍ぶ愛であったにも関わらず、

二人にとっては人生を変えてしまう程の決定的な出来事だったのです。

発掘調査の最中にトラブルにより砂漠で一晩を明かす事になってしまったシーン。

激しい砂嵐が襲う狭い車内で、互いの想いに気が付く場面での何ともロマンチックな演出。

アンソニー・ミンゲラ監督の演者の感情表現に寄り添う丁寧な演出力が、

如何なく発揮された名シーンです。

今は瀕死の姿になってしまった主人公が、

この美しい日々を回想するというのが映画の大筋のパターンなのですが、

すべての場面が煌びやかで美しく、儚い二人の運命の行く末を暗示する様で、

観ている我々の心にもその想いが降り積もっていく様なのです。

運命のおつまみ

今日のおつまみは【おろし厚揚げ】です。

切なげな表情でこちらをじっと見つめる彼は、

大根おろしの雪ダルマ君です。

フライパンでこんがりと焼いた厚揚げの上に鎮座し、

今にも頭からポン酢を被るという運命にあります。

きっと黒ゴマの顔は流れ落ち、ここに彼がいたという確かな証拠は無くなります。

しかし我々にさっぱりとした口当たりと、ピリッとした辛味で幸せを与えてくれた

彼の事をここにこうして留めておく置く事は出来るのです。

ありがとう雪だるま君。きっとまた会えるからね。

本物の映画が存在していた時代

画像引用:(C)1996 Tiger Moth Productions, Inc.

この映画は第二次世界大戦という世界的な改変期を経た、

2組のカップルを対称的に捉えた歴史劇として考える事も出来ます。

戦前に許されぬ不倫の愛に溺れた男と女の物語。

そしてその男を献身的に看護する戦争で全てを失った女と、

戦地で自身のアイデンティティに悩むインド系の兵士との恋の物語。

前者の二人は過酷な運命に絡め捕られ過去の人物となり、

後者の二人はその運命を乗り越えて未来に生きて行こうとします。

彼等の物語は一時僅かな間、交錯してまたすれ違っていくのですが、

その間の決定的な影響が全員の心に大きなものを残していくのです。

死んでいった者達の物語を、未来に引き継ぐ者。

映画とは勿論架空の物語ですが、彼等の生きる姿を目撃した我々のその後の人生は、

何かを引き継いでリアルな世界に影響を与えていきます。

どんな物に材を取ろうと、優れた映画人は観客に絶大な影響を残していきます。

アンソニー・ミンゲラという夭折の天才演出家も正にこの作品で、

世界中の映画ファンにかけがえのない物を遺していってくれました。

許されぬ愛に溺れたい時に観る映画。

他人の失敗に不寛容であるだけのコンプライアンスが叫ばれる現代において、

或いはこの映画のモチーフは不謹慎で不適切と敬遠されてしまうのかも知れません。

しかし物語の中の本当に深いテーマに気が付く人にとっては、

映画という芸術に適切とか不適切とか言った概念自体が不要であるという事が

分かるはずです。

人に本当の意味で感動や衝撃を与える本物の映画とは、

ただ純真に物語を伝え、人間の弱さや脆さを含めた虚飾の無い姿を

晒す作品であるという事。

その事に何の枷も無く、自由な自分達の表現に確信を持っている事。

そしてそれだけの知識と技術と努力を惜しまず注ぎ込める事。

偉大な先達が教えてくれた映画の素晴らしさ。

それを存分に味わえる作品の一つがこの「イングリッシュ・ペイシェント」だと思います。