サスペンス映画

映画【ファーゴ】おつまみ【海老とさつま芋のアヒージョ】

画像引用:© 1996 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved

この映画はこんな人におススメ!!

●思わぬ展開の映画が好きな人

●恐ろしい中にもユーモアが欲しい人

●強烈なキャラクターが観たい人

●滑稽な人間の姿を堪能したい人

タイトルファーゴ
製作国アメリカ、イギリス
公開日1996年11月9日(日本公開)
上映時間98分
監督ジョエル・コーエン
出演フランシス・マクドーマンド、
ウィリアム・H・メイシー、
スティーヴ・ブシェミ、ピーター・ストーメア

人間の滑稽さを堪能したい時に観る映画

賛否両論、好き嫌いがハッキリと別れる作品だと思います。

そもそもコーエン兄弟の作品は殆どがその類であると言えますが。

しかし映画ファンの間では熱狂的に人気のある作品であります。

そこには大層な教訓も、人生の深淵も、学ぶべき哲学もありません。

あるのは人間の滑稽さだけ。

そして僅かに添えられた付け合せの様なヒューマニズム。

徹底した観客を喜ばせる為のエンターテインメントに彩られ、

たっぷりの皮肉と、胃もたれしそうなブラックジョーク。

人を喰った不協和音が圧倒的な余韻を残す唯一無二感。

ジョエルとイーサンのコーエン兄弟の正に真骨頂とも言える作品です。

この映画を正面から捉えると、とても恐ろしい犯罪映画となります。

ちょっと斜から観れば、ドタバタのシュチュエーションコメディとも取れます。

しかしよくよく考えるとこれは反面的なヒューマニズムを

描いているとも言えなくは無いと思えます。

つまりこの作品は表向きと裏の面があって、

解釈によって幾通りものテーマが見え隠れして、

尚且つ笑ってしまうユーモアと凍り付く様な恐怖とが同居する、

他に例の無い傑作映画と言えるのだと思うのです。

第69回アカデミー賞では主演のフランシス・マクドーマンドが主演女優賞、

コーエン兄弟に初の脚本賞ももたらしました。

カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞。

今もコーエン兄弟の代表作として語り草になっている作品です。

映画はやっぱり事実よりも奇なり

画像引用:© 1996 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved

映画の冒頭、実話を元にした作品であるというテロップから始まりますが、

実際は創作のストーリーです。

コーエン兄弟の人を喰ったユーモアがのっけから炸裂する訳ですが、

物語は本当に奇妙な展開を見せていくのです。

金に困った家庭ある中年自動車ディーラーが企てた狂言誘拐事件。

妻を誘拐させて金持ちの義父から多額の身代金を騙し取るという算段でした。

しかし雇われたチンピラ2人組がとんでもない輩で、

警察官を射殺するわ目撃者まで処刑するわで大惨事に発展してしまいます。

深い雪に覆われたミネソタ州の田舎町で起きた大事件。

この捜査にあたるのが妊娠中の警察署長であるフランシス・マクドーマンド演じるマージ。

彼女はそののんびりとし雰囲気とは裏腹に鋭い洞察力を持っていて、

臨月の身重でありながら見事に事件の真相に迫っていきます。

しかしこの作品の肝はハラハラドキドキのフィルム・ノワール調にあるのでは無く、

その事件に携わった偶然が引き寄せた人間達の悲喜こもごもの妙、

その滑稽な喜劇性にフォーカスしていくのです。

サイコパスの相棒に振り回され続けるスティーヴ・ブシェミ演じる子悪党。

彼の悲惨なまでの不運振り。

狂言誘拐を企てた云わば悪の元凶であるディーラーの悲しいまでの悲哀。

身重のマージの何とも朴訥としたキャラクター造形。

コーエン兄弟の見事な脚本で人間味溢れるキャラクターとして描かれた

登場人物達は、偶然の悪戯によって思いも寄らぬ様な展開に突き進んでいきます。

事実は小説よりも奇なりとよく言いますが、

やっぱり映画は事実よりも奇に出来ています。

恐ろしい事件を描きながらこんなにも笑える作品もちょっと他には無いでしょう。

不謹慎で不真面目ですが、

無責任では無い所がこの作品を特別にしている要素でもあるのです。

食欲の秋本番

今日のおつまみは【海老とさつま芋のアヒージョ】です。

肌寒さを感じる様になって、

いよいよ食欲の秋本番といった所。

鍋いっぱいに食材が吹き寄せたアヒージョで、

トーストしたバゲットをオリーブオイルに浸しながら、

白ワインをくっとやるなんてのは本当に乙なものです。

アヒージョは冷蔵庫の余り食材を一気に消費出来るメニューでもあります。

ついつい食べ過ぎ飲み過ぎになってしまう季節ですが、

年の瀬に向けて無病息災。

スタミナ付けて今年もラストスパート頑張っていきましょう!

過剰だからこそ際立つヒューマニズム

画像引用:© 1996 ORION PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved

今作の主人公とも言える女性警察署長のマージ。

彼は愛する夫ノームと仲睦まじい生活を送っています。

殺人事件の一報が入った明け方近くの寝室。

電話で叩き起こされる訳ですが、

隣で眠る夫は妻の為に出勤前の朝ご飯を作って上げます。

お昼には妻の為に警察署にハンバーガーを差し入れて一緒に食べる。

夜はベットで仲良くテレビを見ながら一日の労を労う。

この陰惨な事件が巻き起こる映画の中で、

マージとノームの夫婦愛のシーンが本当に微笑ましくて印象に残るのです。

欲に突き動き、私利私欲のまま他人を傷付けるのも人間なら、

相手の為に私を滅して尽くすのも人間。

数奇な偶然で地獄に落ちるのも人なら、

絶対的な愛の安定の中で眠る事が出来るのも人である。

この一つの作品の中で相対する様なモチーフを並列させて、

独特の世界観を築くのがコーエン兄弟の脚本の真骨頂と言えます。

人間を白か黒かでとかく描きたがるのがフィクションの世界ですが、

実際はもっと複雑で色んな要素をごった煮の状態で抱えるのが人間。

それを限られた尺とエンターテインメントの中で描くには、

ちょっと理屈を超えた様な所で人を描く必要がある様に思います。

善人とか悪人とでは無く、

皆滑稽で醜くく、でも正しくて正直な所もあったりする。

そこにリアリティがあって観客の心をぐっと掴む要素があったりするのです。

人間の滑稽さを堪能したい時に観る映画。

コーエン兄弟の映画は冒頭にも言いましたが万人受けするものではありません。

大ヒットする作品もあれば嘘みたいにコケた作品もあります。

でも彼等の映画には人間の芯を描くという壮大なチャレンジが常にあります。

そこが映画ファンとして注目せざるを得ない要素なのです。

1987年の【赤ちゃん泥棒】や、

2000年の【オー・ブラザー!】にも通ずる様な荒唐無稽の人間愛と、

血の気も引く様な恐ろしいサスペンスが見事に結実した映画。

【ファーゴ】は一度観たら忘れられないトラウマ映画になる事必至です。

是非覚悟と期待を持ってご鑑賞下さい!