サスペンス映画

映画【ノーカントリー】おつまみ【おせち】

画像引用:IMDB

この映画はこんな人におススメ!!

●強烈な悪役が見たい人

●緊迫のクライムサスペンスが見たい人

●アメリカ社会の闇を見たい人

●感情を排した無機質な恐怖を味わいたい人

タイトルノーカントリー
製作国アメリカ
公開日2008年3月15日(日本公開)
上映時間122分
監督ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、
ジョシュ・ブローリン、ウディ・ハレルソン

得体の知れない恐怖を体験したい時に観る映画

2024年一発目のひとつまみにまさかのチョイス。

背筋も凍るクライムサスペンスのおススメです。

1991年の【バートン・フィンク】や1996年の【ファーゴ】など、

人間の恐ろしさと滑稽さを独特の皮肉を込めた表現で描いてきた

ジョエルとイーサンのコーエン兄弟。

彼等の犯罪映画の決定版がこの【ノーカントリー】です。

映画には様々な「恐怖」を描いた作品がありますが、

この作品の「恐怖」は一言で言えば「不条理」です。

理解不能で理由の無い暴力、その薄気味悪さと異常性が

観る者の思考回路を停止させ、混乱状態に陥れます。

「どうして?」「何で?」に答えは無く、

ただその異常な犯罪がそこにあるという事実のみを突き付けてくるのです。

余計な映画的装飾を排し、シンプルにかつ淡々と描かれる異様な世界。

正に得体の知れない恐怖に観客は唯々晒され続ける体験が待っているのです。

映画史上最恐の殺人者

画像引用:IMDB

この映画の異常なまでの緊迫感は、何よりハビエル・バルデムが演じた

追跡者アントン・シガーのキャラクター造形にあります。

物語は麻薬絡みの大金を盗んだモスという名の男と、

それを追う追跡者の殺人鬼シガー、

そして更にそれを追う保安官のベルの3人が中心になっています。

シガーはギャングに金で雇われた追跡者なのですが、

自分の行く手に待ち受ける者のことごとくを殺していってしまう

シリアルキラーなのです。

標的を追い詰める為には手段を択ばず、

ただ車を盗む為だけであっても、躊躇する事無く殺人を働きます。

しかもそれを特に楽しむ様な快楽的殺人者という訳でも無く、

寡黙に淡々と、まるで感情の無い人間の様に無機質な殺人を繰り返していくのです。

更に特筆すべきはこのシガーの愛用する武器にあります。

家畜の屠殺に使われる高圧ガスでボルトを発射する物で、

大きなガスボンベとゴムホースを持って歩く姿が不気味で忘れられません。

この殺人鬼は時に標的にコイントスでの賭けを持ち掛け、

その勝敗によって殺すかどうかを決めたりします。

この異様な雰囲気で相手に自分の理屈を押し通そうとするシーンは、

本当にぞっとする様な迫力があります。

シガーはギャングに雇われていますがその雇い主達の裏切りが分ると、

それも容赦なく殺し、尚も標的を追い続ける事を止めません。

その殺人は、金の為でも、何かの復讐でも、名誉の為でも、快楽でもありません。

何の主張も理由も無い所に底知れぬ恐ろしさがあるのです。

おつまみ初め

今日のおつまみは【おせち】です。

映画とはちょっと不釣り合いですが、やっぱりお正月ですので。

今年は妻の手作りチャーシューと、なます、

紀文の伊達巻と蒲鉾に酢だこというラインナップ。

今年もどうぞ宜しくお願い致します。

時代の転換期

画像引用:IMDB

この作品はアメリカの現代文学を代表する作家コーマック・マッカーシーの

【No Country for Old Men】という小説を原作にしています。

これを直訳すると「年老いた者たちのための国はない」となります。

つまりこの作品の根底には新しい時代の価値観によって、

古い世代の人間が追いやられていく世代交代というテーマがあるのです。

主人公の一人のベテラン保安官であるベル(トミー・リー・ジョーンズ)が、

最近の犯罪者の動機や手段に付いていけないと嘆くシーンがありますが、

旧来の価値観では到底理解出来ない様な複雑で異様な犯罪が

増えていった時代なのかも知れません。

我々もいつの頃からか、犯罪を犯した犯人の言葉を聞いても、

一体何がしたかったのか?どこに動機があるのか?

理解出来ないケースが数多くあるかと思います。

捜査のプロであるベテラン保安官でさえ分からないと言う位なので、

それは本当に異常な時代がやってきたという恐怖と不安なのだと思います。

その象徴としてこの映画のシガーという殺人鬼は強烈なキャラクターであったと思います。

得体の知れない恐怖を体験したい時に観る映画。

正に映画史の残る悪役が印象的な今作品。

コーエン兄弟はこの陰惨な物語を実に淡々とリアルに描写していきます。

一見無駄にも思える悪役が負った傷を自ら治療するシーンや、

ガソリンスタンドの主人とのかみ合わない会話のシーンなど、

緊迫したシーンの合間に絶妙に印象的な表現を挟み込んできます。

彼等の作品は常に人間の心理の複雑な発露に特化した所があるので、

恐ろしい中にも滑稽さがあり、悲しい中にも笑ってしまう部分があったりします。

作品の本筋とはあまり関係なさそうな所で、

キャラクターが妙な同期した符号を見せる行動をしたり、

偶然の一致をさり気無く描写したり、

そんなシーンが妙なリアリティと不思議な浮遊感を抱かせたりします。

賛否両論の激しい作品ではあると思います。

敢えてはっきりとさせない描写で観客を混乱させる様に作られているとも感じます。

しかし他では決して体験出来ない様なある意味で純粋な映画体験をさせる

作品だと思います。

理由や温度を感じない不気味な犯罪映画ですが、

そこが非常にリアルで痛烈であると思ったりするのです。