ヒューマンドラマ映画

映画【さすらい】おつまみ【帆立のバター焼き】

画像引用:IMDb

この映画はこんな人におススメ!!

●モノクロフィルムの美しさを体験したい人

●旅に出てみたい人

●自由にさすらう気分を味わいたい人

●自分の過去をじっくりと顧みたい人

タイトルさすらい
製作国西ドイツ
公開日1977年1月26日(日本公開)
上映時間176分
監督ヴィム・ヴェンダース
出演リュディガー・フォーグラー、ハンス・ツィッシュラー、
リサ・クロイツァー

旅に出る理由を探している時に観る映画

今回はわたくしころっぷのオールタイムベスト作品のおススメです。

かれこれ20年以上前に自主制作映画などをやっていた頃に観て感動し、

ずっと一番好きな映画だと思っている作品です。

今回本当に久し振りに鑑賞しましたが、やっぱり最高でした。

写真家としても評価の高いヴィム・ヴェンダース監督の、

モノクロフィルムで切り取られた一つ一つの風景が、

まるで遠い昔の自分の記憶の様に懐かしく感じました。

登場人物達を古い友人の様に感じ、彼等の物語を過ぎ去った日々の様に思う。

1本の映画がこれ程までに自分の構成要素に組み込まれた経験も、

他には無いように思います。

長く映画ファンをやっていて、数え切れない程の映画を観てきても、

こういう個人的に深い所に刺さる作品に出会えるのは本当に稀で貴重な事です。

自分の中で余りにも大事な作品という感覚が強くなり過ぎたので、

再鑑賞するまでにとても長い年月が掛かってしまいました。

でも自分自身も年を取り、色んな人生経験を経た今だからこそ、

また違った印象を持つことが出来て、より感慨深いのだと思います。

この映画は脚本の無い即興演出で作られた作品だそうです。

写真家のヴィム・ヴェンダース監督らしい、「風景」が主役とも言える作品。

176分という長尺の中に、揺蕩う様な旅に出る独特の感覚が味わえると思います。

そこに特別な出来事がある訳ではありませんが、掛け替えの無い人生の一瞬を切り取った、

確かに生きているという感触のある作品です。

旅の道連れ

画像引用:IMDb

物語はブルーノとロベルトという2人の男の束の間の旅の道連れを描いています。

大きなキャンピングカーで映写機の修理をしながら旅をするブルーノ。

妻との離婚で自暴自棄になり車ごと川に飛び込んだロベルトを拾い、

彼等はごく自然に旅の道連れとなります。

互いに口数少なく、余り愛想が良いとは言えない者同士の、

不器用な交流が何とも味わい深く、ニヤリとさせる演出です。

監督のヴィム・ヴェンダースはこの作品を制作するにあたって、

ロケ地の入念な準備と構想はあったのですが、脚本は用意しませんでした。

実際にスタッフ・キャストで西ドイツを旅しながら、

その場で台詞を決めて、即興で演出していきました。

およそ劇映画では見られない、自由で朴訥とした時間の流れ方は、

そんな制作体制の為せる技だったのかも知れません。

映画撮影という旅の中で映画そのものが次第に意味を獲得していく様。

偶発的で奇跡的なドラマが立ち上がるその瞬間を、

写真家ならではの嗅覚でフィルムに閉じ込めていったのです。

筋書きの無いドラマは人の移動とその風景の中で輪郭を持ち始めます。

やがてロベルトは10年以上会っていない父親を訪ね、

ブルーノは幼い頃に母親と住んでいた廃屋を訪れます。

過去と向き合い、現在の流浪の身を鑑みる2人。

そこに必要以上の言葉は無く、ただ束の間振り返った旅の道筋に、

落としてきた物や失くしてしまった物がよぎっていく。

そして旅の終わりに2人の男は、振り返らずにそれぞれの道を進みます。

人生のほんの一瞬すれ違ったに過ぎない2人なのかも知れませんが、

彼等の間にあった言葉に出来ない空気感が、

観る者に克明に伝わってくるから不思議です。

観客はそこに勝手に自分の過去を結び付け、

この先の未来を想い、エンドロールの先に踏み出していきます。

素晴らしい映画という物は往々にして全てを語りません。

観る者に勝手に語らせる物なのだと思います。

この映画にも何物にも代え難い「素晴らしい余白」があります。

それは中身の無い作品という意味ではありません。

おつまみの旅

今日のおつまみは【帆立のバター焼き】です。

これはもう間違いの無い一品ですね。

お刺身用の帆立をバターでソテーしてぽちっと醤油を垂らす。

シンプル・イズ・ベスト。

長い旅路の果てに、やっぱり辿り着くのは「ド定番」という終着地。

しかし食いしん坊人生の「旅」はまだまだ終わりません。

終わりなき旅

画像引用:IMDb

古今東西、「旅」を扱った作品は沢山あります。

徒歩、自転車、バイク、車、電車、船、飛行機。

逃避行、追跡、観光、仕事、自分探し、冒険。

くるりの「ハイウェイ」という曲の歌詞にもありますが、

「旅」にでる理由は数え切れない程あるようです。

でも実際は理由ばかりあって本当に「旅」に出る事は稀だと思います。

それは一所に居ても、

人生そのものが波乱に満ちた「旅」でもあるからかも知れません。

人は死ぬまで終わりの無い旅の中にいるのでしょう。

ヴィム・ヴェンダース監督にとっても、

この作品は「映画」を作るという「旅」のほんの通過点の一つに過ぎないのだと思います。

あらゆる可能性と実験精神を待った気鋭の映画作家が、

70年代のドイツの風景の中に、長い人生の過去と未来を切り取った写真。

そこに封じ込まれた空気がこの映画を観る度に観客を「旅」に連れ出してくれます。

この作品を初めて見た20代の頃の気持ちから、

40代の今に至るまでまでの「旅」。

西ドイツの荒涼とした風景の中に、自分自身の人生の風景が溶け合っていきます。

生きている限り、終わりなき旅の道中にあるという事を実感したりします。

旅に出る理由を探している時に観る映画。

時にその人生観に大きな影響を与えてくれる作品に出会う事があります。

わたくしにとってはこの【さすらい】がまさにそれでした。

このフィルムに刻まれている1分1秒が、

ころっぷという人間を構成する重要な要素になっています。

行った事の無い場所、会った事の人、経験した事の無い出来事。

それが「時」を経て自分の体験になってしまう。

映画はそんな力を時々発揮してくれます。

あなたにとってのそんな1本と出会える

ささやかなキッカケになれたらと願い、

2023年最後の記事を締めさせて頂きます。

皆様、よいお年を。