アニメーション映画

映画【東京ゴッドファーザーズ】おつまみ【鰤の照り焼き】

画像引用:©1993 Sniper Productions. All Rights Reserved.

この映画はこんな人におススメ!!

●美しい背景画を観たい人

●見事なキャラクター造形を堪能したい人

●東京のアンダーグラウンドを覗きたい人

●人生の再起を体感したい人

タイトル東京ゴッドファーザーズ
製作国日本
公開日2003年11月8日(日本公開)
上映時間92分
監督今 敏
出演江守徹、梅垣義明、岡本綾
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現実を凌駕するリアリティに触れたい時に観る映画

日本のアニメーションの面白さを、

世界に見せ付けた今敏監督が亡くなって早15年になろうとしています。

漫画家からキャリアをスタートした今監督は、

その類稀なアイディアと演出力で唯一無二の作品を生み出しました。

しかし劇場長編作品は僅かに4作品。

余りに早すぎた死を惜しむ声は今も絶えません。

この【東京ゴッドファーザーズ】という作品は今監督にとって長編第3作品目。

彼のフィルモグラフィの中では最も明るくて楽しい作品だと思います。

しかし今監督という人は所謂普通の表現者ではありません。

エンターテイメント作品の中にも、

様々なコンセプトを詰め込んで観客を翻弄し、また魅了もする演出家なのです。

アニメーションという特殊な業界において、

新しい価値観や表現方法に挑戦し続けた作家でもあります。

この【東京ゴッドファーザーズ】という作品も、

笑いに彩られたドタバタ喜劇でありながら、

人生の悲喜こもごもに考えさせられ、時には涙を誘い、

生きる事の意味を問われる深いドラマ性を持った作品になっています。

よく練られた脚本と、圧倒的なリアリティを持つ作画。

キャラクター達に命を吹き込んだ演出に、深い余韻を促す感情移入。

今監督のアニメーションには従来の「荒唐無稽」とは異なる現実飛躍があります。

それは物事の本質を描こうという鋭い批判精神が為すが故の作家性。

今敏という人間の哲学が画面に滲み出ているからに他なりません。

きっと一見すればこの映画が特別な力を持つ作品である事が分かるはずです。

偶然に支配された世界

画像引用:©1993 Sniper Productions. All Rights Reserved.

物語は東京のアンダーグラウンドに生きる3人のホームレスが、

聖夜のゴミ捨て場で赤ん坊を見つける所から始まります。

無論彼等はそれぞれ脛に傷を持つ身であり面倒事は避けたい訳なのですが、

元ドラッグクイーンのハナがこの赤ん坊の両親を自分の手で探すと言い張った事で、

自称元競輪選手のギンと家出少女のミユキは騒動に巻き込まれていくのです。

雪降りしきる東京の街で、3人のホームレスによる奇妙な探偵劇が始まります。

頼りない手掛かりが偶然のヒントを呼び、

そのヒントがまた偶然の事件を呼ぶ。

偶然の出逢いによって核心に迫ったり、また偶然によってピンチにも陥る。

この物語を支配するのはつまりは偶然なのです。

創作の世界に於いて偶然の使い道はよくよく慎重にならなくてはなりません。

都合の良い偶然で全てを展開してしまっては一気にリアリティが失われ、

観客の興味が離れていってしまうからです。

しかし今監督はあえてその偶然をこれでもかと連発します。

今監督はこの作品の制作経緯を語る中で、

いくつもの偶然が重り、まるで運命に導かれる様に

この【東京ゴッドファーザーズ】という作品が生まれたと言ってます。

説明は付かないけど確かにそこにある偶然の力。

それは誰しも多かれ少なかれ生きていく中で経験がある事と思います。

映画という作為の塊の中に、意図して意図できないものを描く事。

誰にも説明出来ない力を描く事でこの作品は強烈な寓話性を獲得しているのです。

偶然は説明出来ない物ですが、そこには必ず何かしらの力が働いている。

それが神の力なのか、それとも人間の無意識の力なのか。

その不思議な力と物語の躍動とが見事に結託して、

我々が今まで体験した事の無い様なエンターテイメントが目の前に現れるのです。

偶然の産物

今日のおつまみは【鰤の照り焼き】です。

普段お肉系のおつまみばかりの我が家にも、

たまにはお魚系のメニューが上がる事もあります。

今日は偶然スーパーのお買い得品だった鰤。

鰤と言ったらそりゃ照り焼きに決まりですよね。

子供の頃から焼き魚で一番好きなメニューはこれでした!

ご飯が進むし、お肉みたいなボリューム感で大満足。

勿論大人になった今はお酒のお供にもバッチリです。

日本人の一番の発明は間違いなく照り焼きですよね。

アニメーションによる業の肯定

画像引用:©1993 Sniper Productions. All Rights Reserved.

かつて落語家立川談志はこう言いました。

「落語とは人間の業(ごう)の肯定である」と。

落語には善人も悪人も愚者も賢者も皆ごった煮に登場します。

その中でどんな悪人が悪行をしようと、

或いはどんな与太者が馬鹿な真似をしようとも笑い飛ばします。

この世の出来事全て、

人間の業の全てを笑って肯定してしまう。

それが落語の本質であるという事なのかも知れません。

今監督のアニメーション作品もこれに通ずる気がするのです。

社会的弱者、アウトロー達が犯罪まがいのドタバタを演じるこの作品。

弱い者、穢い者、情けない者に寄り添うこの物語には、

どんな人生にも人間である事の正しさが存在するのだという肯定感に溢れています。

失敗や後悔は誰の人生にもあります。

間違いや他人を傷付けてしまう事だってあります。

しかしそれが偶然の力によって奇跡の様に救われてしまう。

まるで狐につままれた様なオチに至る。

それをご都合主義と切り捨てるか、

業の肯定と受け取るかは観る者一人一人のセンスに委ねられるのでしょう。

今監督は今も私達に事実よりも本質を問い掛けている様に感じます。

現実を凌駕するリアリティに触れたい時に観る映画。

映画という作り物に魅了され続け、

気付けばこんなブログまでやっている自分ですが、

それでも映画って本当に不思議なもので何だかよく分からないものなのです。

ただ優れた作り手達が、

心血注いで作り上げたその作品達から、

ごく稀ですが本当に大切な事を教えてもらう事があります。

それは「正しい」事とか「答え」とかでは無いのです。

人が生きる上でもっとシンプルなもの、

それは自分がここにいるという事を肯定してくれるもの。

その強烈な「共感力」なのです。

作品を観さえすればそこに作り手達は何度でも蘇る。

水野晴郎さんの名言を引用させて頂きます。

「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」