サスペンス

映画【ザ・メニュー】おつまみ【ジェノヴァ風貝柱のソテー】

画像引用:©2022 20th Century Studios. All rights reserved.

この映画はこんな人におススメ!!

●一風変わった恐怖を体験したい人

●強烈な皮肉を味わいたい人

●我こそは美食家という人

●自分だけの価値観を磨きたい人

タイトルザ・メニュー
製作国アメリカ
公開日2022年11月18日
上映時間107分
監督マーク・マイロッド
出演レイフ・ファインズ、
アニャ・テイラー=ジョイ、
ニコラス・ホルト、ホン・チャウ

予測の付かない展開に翻弄されたい時に観る映画

これは中々に衝撃的な作品です。

冒頭から不穏な空気に包まれ、

何か起こるなという予感を感じさせつつも、

見事に予想の斜め上を行く展開で観客の度肝を抜く。

ホラーでもあり、サスペンスでもあり、

また極上のブラックコメディでもあります。

そして何より強烈な皮肉に彩られた社会風刺であり、

現代人のモラルに鋭く突き刺さる暗喩的なテーゼでもあるのです。

一見不条理な設定の中、

奇怪な人物によって日常が大きく歪まされるのですが、

よくよく考えてみるとこれは私達がよく知っている世界そのもの。

異常に見える状況こそが私達の置かれている実状なのです。

これは持たざる者の持てる者への復讐とも取れるし、

神の裁きであるとも取れます。

つまりは観る者によって感じ方は随分と変わってくるでしょうし、

勿論正解は一つでは無いのですが、

その価値観が大きく揺さぶられる事だけは間違いないと思います。

製作や監督いずれもこれまでにコメディ映画で実績のある人物達。

まるで教訓話の様な奇抜な脚本に、

圧倒的な説得力をもたらしているのが主演のレイフ・ファインズの存在です。

彼が演じる底の知れない不気味さを湛えた人物造形が、

この映画の肝であり最大の魅力になっています。

神の王国

画像引用:©2022 20th Century Studios. All rights reserved.

物語は11人のセレブ達が絶海の孤島にある

超高級レストランへとやってくる所から幕を開けます。

一人20万円という法外な料金で提供されるのは、

世界的に有名なシェフが振舞う渾身のコースメニュー。

趣向を凝らした芸術的な料理が供される中、

次第に平和だった晩餐が恐怖の舞台へと変貌していくというストーリー。

今作の恐怖の源は「不条理」がもたらす唐突な非日常感にあります。

予測の範囲内であったり理解の範疇であったりする日常が、

「暴力」によっていとも容易く崩れ去ってしまう。

その脆さと絶望感の中に宙ぶらりんの状態で放置される不安。

シェフのスローヴィク(レイフ・ファインズ)は、

スタッフから絶対的な忠誠と崇拝を得る神の様な存在。

軍隊の様な規律が敷かれた厨房。

ゲストを嘲笑うかの様な挑発的なメニュー。

疑問を挟む余地すら与えない圧倒的な暴力。

その全てはのぼせ上った現代人達に対する

神の裁きであるかの様です。

バベルの塔やノアの箱舟の様な、

人間達の原罪に対する罰。

料理の味やその趣向に何の理解もないままに、

ただ自分達の自尊心とエゴの元に

高級レストランに次々とやってくるセレブ達に対する

痛烈な復讐劇。

そこにはファッション化した信仰に対する原理主義や、

ポーズだけのエコロジスト達への皮肉も多いに感じさせたりします。

情報量と財力のみで万物の理を悟った様な顔をした富裕層達に、

本物の芸術家が牙を剥くというある種のカタルシスを描いた作品でもあるのです。

恐怖の一皿

今日のおつまみは【ジェノヴァ風貝柱のソテー】です。

映画の中の人を喰った様なメニューでは無く、

ただただシンプルに美味しい一皿です。

スーパーで値引きされていた平貝の貝柱。

これをシンプルにミニトマトと一緒にオリーブオイルでソテーして、

バジルソースを掛けただけ。

白ワインとの相性が抜群です。

戦場に迷い込んだ異分子

画像引用:©2022 20th Century Studios. All rights reserved.

今作に於いてもう一人重要な役割を負った登場人物が、

アニャ・テイラー=ジョイが演じたマーゴットという存在です。

彼女は富裕層の美食家であるタイラー(ニコラス・ホルト)に連れられ

レストランにやって来るのですが実はマーゴット本人では無く、

代わりに連れて来られた娼婦。

この招かれざる客がスローヴィクの計画に僅かな隙をもたらすのです。

完璧主義者のスローヴィクは

自分の復讐の対象では無いマーゴットの処遇に窮します。

そして彼女はこの場の不自然さに

最初から気が付いていた唯一の人物でもあるのです。

当たり前の不快感や違和感に素直な彼女は、

スローヴィクの料理にも堂々とケチを付ける。

何の疑いも持たない愚かな盲従者達の中で、

彼女は唯一真っ当な感性を持った持たざる者なのです。

ただ神経を逆なで人を不安にあせる様な過剰な現代アートに対して、

極々単純に不快であると言える芯の強さ。

周りに流されずに意見を持つ強さ。

それこそが彼女を絶望の淵から生還させた叡智だったのかも知れません。

私達も何だかよく分からずに抽象画を有難がったり、

値段が高いものはいいものだと妄信してしまう所がありますよね。

でも自分の審美眼を信じ貫く事こそが、

本当の価値観であるという様なテーゼが含まれている様な気がします。

予測の付かない展開に翻弄されたい時に観る映画。

今作はまるでホラー映画の様な緊張感と恐怖が味わえます。

しかしそこには思わず笑ってしまう様な

滑稽な人間の本性も炙り出されています。

悲劇と喜劇は表裏一体であるとよく言いますが、

恐怖が笑いを生み、

可笑しさが絶望を誘う事もあるのだと

この映画は教えてくれているようです。