SF映画

映画【月に囚われた男】おつまみ【フライドポテト】

画像引用:© 2009 Lunar Industries Limited. All Rights Reserved.

この映画はこんな人におススメ!!

●閉鎖空間での密室劇が好きな人

●陰謀めいたサスペンスが観たい人

●クローン技術について興味がある人

●人間の存在の意味について考えたい人

タイトル月に囚われた男
製作国イギリス、アメリカ
公開日2010年4月10日(日本公開)
上映時間97分
監督ダンカン・ジョーンズ
出演サム・ロックウェル、
ケビン・スペイシー(声)
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孤独に耐えられなくなりそうな時に観る映画

時にSF映画には深淵を覗き込むかの様な気持ちにさせられる事がありますが、

今作も背筋がゾクッとする様な恐ろしさを内包していると作品であると言えます。

優れたSF作品には一見して突飛で目を引く驚きがあったりします。

しかしそれは我々が暮らす現実社会を投影した間接的な批判であったり、

警句であったりするのが定石です。

来るべき未来を予見し、その危険性を誇張してインパクトを得る。

テクノロジーの進化や環境破壊が招く悲劇を描き、

忘れてはならない人間性や愛などについて説くのがSF映画の一つの役割でした。

地球規模の危機や宇宙を舞台にした壮大なクロニクルを描くには当然相応の予算が必要で、

それをケチればすぐにB級マイナー映画の烙印が押され、

貸出棚で埃を被る末路を辿る事になります。

つまりSF映画とはハイリスクハイリターンの危険な博打であり、

数多くの駄作の上に極僅かの傑作が鎮座するという特異なジャンルなのです。

そしてこの【月に囚われた男】という作品。

今作はSF映画のカテゴライズの中では群を抜いた低予算であり、

尚且つ地味でヒットの要素の見当たらない映画であると言えます。

宇宙を舞台にした大戦争。

一族に継承された絶大な力。

世界の運命を左右する様な重要な決断。

そんものとは無縁で至って派手さの無い作品です。

しかしそれだからこそシンプルな舞台設定と、

そこに潜む人間の根幹に関わるテーマが直に伝わってくるのです。

この映画のテーマは「孤独」です。

人は絶対的な「孤独」の中で如何に生きる事が出来るのか?

そんな使い古されたテーマを驚く様な舞台設定で描いて見せてくれるのが、

この【月に囚われた男】という作品なのです。

ひとりぼっちのあいつ

画像引用:© 2009 Lunar Industries Limited. All Rights Reserved.

物語の主人公サム・ベルは月の裏側でたった一人資源採掘の仕事に就いています。

化石燃料が枯渇した近未来の地球でのエネルギー問題は、

月に眠るヘリウム3という物質によって解決していました。

サムは大きな月面プラントで3年間の任務に就いています。

数週間の後にその任期は終わり、地球に帰還出来るというタイミングでした。

しかし彼の体調が次第に悪くなっていき、重大な事故を起こしてしまいます。

とまあ、基本設定はこんな感じのなのですが、

映画冒頭から何だかきな臭い雰囲気が漂っています。

何かの陰謀というか策略というか、

何かしら主人公のサムに良からぬ事が起きつつあるというのが分かります。

ひとりぼっちの孤独な生活の唯一の拠り所は、

人工知能を持ったロボット「ガーティ」。

地球に残してきた愛する妻と幼い娘に会う為に、

サムは月での単調な任務に必死で耐えてきたのでした。

しかし物語が進むにつれて、

この任務に隠された恐ろしい事実が明らかになっていくのです。

これはネタバレと言えばそうなのかも知れませんが、

所謂物語の最も大事な部分はそこにはありません。

主人公はその事実に割と早い段階で気が付きますし、

そもそも中盤に差し掛かる頃にはタネは明かされてしまいます。

それでは何がこの映画を結末まで引っ張っていくのでしょうか?

それが「孤独」という普遍的なテーマなのです。

そんな彼の前に文字通り自分と向き合うキッカケが訪れます。

それが全て会社が仕組んだ策略だったのだとしても、

そこで得た経験は彼にとって掛け替えの無いものでした。

山盛りポテト

今日のおつまみは【フライドポテト】です。

妻の大好物であり、映画のお供に最適なおつまみ。

近所のスーパーで大袋1キロの冷凍ポテトを仕入れ、

事毎に食卓に並びます。

お酒が進んでちょっとまだ何か食べたいよねと言う時に、

ピッタリのおつまみなのです。

このジャガイモは遺伝子組み換えではありません。

クローンの悲劇は食卓には持ち込ませません。

人間の存在する意味とは

画像引用:© 2009 Lunar Industries Limited. All Rights Reserved.

今作を観終わった正直な感想は「面白い」というよりも「恐ろしい」でした。

まるで良く出来た心理ホラー映画の様な尾を引く感じの恐怖です。

この物語の主人公サムは資源収集の為に作られた「クローン」であり、

3年という寿命を経た後は使い捨てにされ新たなサムと交換されるのです。

この作品の最も恐ろしいのは、月面で一人という物理的な「孤独」では無く、

自分の存在自体が作り物で「アイデンティティ」が存在しないという所なのです。

自分だと思っていた物がオリジナルでは無く誰かのクローン。

無限に交換可能な部品でしかなかったという事実。

これを突き付けられたらちょっと正気ではいられないですよね。

でもふと考えると、私達の「アイデンティティ」もオリジナルなのでしょうか。

限りある寿命の中で、与えられた仕事に明け暮れる我々もひょっとすると、

今作の主人公サムと似た様な立場なのではないでしょうか。

そう考えると中々深くて薄ら恐ろしい映画ですよね。

衝撃の事実に打ちひしがれるサムが、

もう一人の若いサムに対して次第に「父親」の様な優しさを持って接していくのも、

今作の見所の一つだと思います。

反目し合っていた自分同士の間に、奇妙な連帯と同情が生まれる。

これは本当にSF的な寓話だと思って感心した部分です。

孤独に耐えられなくなりそうな時に観る映画。

思えば誰しも月面でたった一人の孤独に蝕まれる存在と言えるのではないでしょうか。

SF映画的な誇張や虚飾はあれど、

そこには本質的な人間の姿が描かれています。

本当に自分はこの世界に意思を持って存在しているのだろうか?

逃げ場のない限られた時間の中で生きている「クローン」なのではないか?

「孤独」に耐えられなくなったサムが得たもう一人の自分。

激しい拒絶の末にサムが見せた同情と微かな慈愛の精神が、

何よりも人間らしかったのがこの映画のミソなのでは無いでしょうか。