ドキュメンタリー映画

映画【名付けようのない踊り】おつまみ【無限キャベツ】

画像引用:©2021「名付けようのない踊り」製作委員会

この映画はこんな人におススメ!!

●一風変わった踊りが観たい人

●前衛芸術が好きな人

●胸がザワザワする体験がしたい人

●俳優・田中泯に興味がある人

タイトル名付けようのない踊り
製作国日本
公開日2022年1月28日
上映時間114分
監督犬童一心
出演田中泯、石原淋、中村達也、大友良英

名付けようのない感情を呼び起こしたい時に観る映画

田中泯という人をご存知だろうか?

最近では大ヒット映画【国宝】で目にした人も多いかと思います。

2002年公開の山田洋二監督の時代劇【たそがれ清兵衛】において、

俳優初出演にしていきなり日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞を受賞。

以後数々の映画やテレビドラマで独特の存在感を発揮していますが、

田中泯は本来ダンサーなのです。

と言っても田中泯の踊りは音楽に合わせて振付を舞う、

所謂通常のダンスとはかけ離れたものです。

それは即興演劇の様でもあり、

路上パフォーマンスの様でもあり、

前衛芸術の様でもある。

言葉にしようとすればどこか捉え切れず、

何に例えようにも似た者も無く、

形容しようとすればするりと間を抜け落ちていってしまう。

つまりは名付けようのない踊りという事になってしまうのです。

言ってみれば唯一無二、

だが理解不能で異様な世界観。

観る者を不安にし、胸をザワつかせる光景でもあります。

そしてそれは私達の日常を不確かな物にし、

異世界を容易く身近なものにしてしまう不思議なパワーを持った踊りなのです。

息をするように踊る

画像引用:©2021「名付けようのない踊り」製作委員会

この作品は通常のドキュメンタリー映画とは一線を画しています。

被写体の半生を時系列に描写したり、

本人にインタビューして半生を語らせたり、

関係者の証言で人物像を浮かび上がらせたりといった常套手段を殆ど取らないのです。

軸足は常に田中泯の踊りにあるのです。

まるで踊りの中に田中泯という人間が説明されていると言っているかの様に、

カメラは執拗に田中泯の踊りを映し続けます。

勿論、それが何を意味する踊りなのか、

注釈や本人の説明もありません。

すべては受取り手側の想像力に委ねられるのです。

田中泯の踊りは「場踊り」と呼ばれ、

それは唐突に私達の日常の中に放り込まれます。

突如当たり前であった世界に亀裂が生じ、

田中泯の踊りは周りの空気を一変させてしまいます。

目を剥き、肢体をくねらせ、天を仰ぎ、地にへばり付きます。

安穏と暮らしていた世界が、

実は意図も容易く崩壊する事を私達はその時漸く知ります。

この世界にあって当たり前の事なんか無かったのだと。

それ故に生活とは如何に尊く奇跡的なものなのだと。

勿論これも個人的な感想に過ぎず、

田中泯の踊りを見て感じる事は人により千差万別です。

それが本来の芸術であり表現であるという意見もまた、個人的な考察に過ぎないのです。

彼の踊りの一挙手一投足に意味を求めるのはナンセンスなのでしょう。

それは本人にも理解不能で、

再現不可能な瞬間の積み重ねでしか無く、

それは例えば本能であるとか瞬発力であるとか言えるのかも知れませんが、

それさえ後付けでしか無く、

消えた波紋に色を付けるのは誰にも出来ない事なのかも知れません。

名付けようのないおつまみ

今日のおつまみは【無限キャベツ】です。

これは究極のシンプルおつまみです。

乱切りしたキャベツと塩昆布を和えただけ。

しかしこれが箸が止まらなくなる位に旨い。

どんなお酒にもこれがまた合う。

本当に無駄をこそげ取った究極のレシピ。

一玉丸ごとでも行けるんじゃないかと思います。

生きる事の幸せとは

画像引用:©2021「名付けようのない踊り」製作委員会

世界中の街角で踊り、田中泯はその場でしかありえない光景を作り出します。

土に植わる根や、水に流れる葉の様に、

景色と一体化する事で自分の存在を消す作業をしている様にも見えます。

彼が踊りの最中に何を求めているのかは分かりませんが、

見ている私達の中にも確かに彼の踊りに反応している部分がある事を、

強く感じる瞬間がある事に驚かされるのです。

生きていて幸せを感じるっていうのは、

こんな言葉に出来ない様な高鳴りがじっと胸を満たしてくれる瞬間なのかも知れないなと、

強く感じました。

踊りとはそういう意味で最も原初的で、

シンプルかつ直接的に人の心に入り込む力が備わっているものなのだなと思いました。

言語表現に拘りと憧れを持ってきた人間として、

抽象的な身体表現というものには懐疑的な印象を持っていました。

しかしまず俳優としての彼の存在感に興味を引かれ、

今作でその踊りに僅かながら触れる事が出来た上で、

まだまだ知らない人間の可能性の様なものを教えて頂いた様な気がします。

人間はこんなにも自由で好きに生きられるものなんだなと、

彼を見ていると勇気付けられます。

そしてその為には想像力を研ぎ澄まし、

鍛錬を怠ってはならないと、

そのストイックで厳しい活動を持って戒められてもいる様でした。

今作によって益々謎を深められた田中泯という存在に興味は尽きません。

名付けようのない感情を呼び起こしたい時に観る映画。

全ての芸術や表現がそうである様に、

全ての人が同じ様に感じるものはこの世に存在しません。

田中泯の踊りを見て、嫌悪したり怒りを覚えたり、

意味が分からないから投げ出す人もいるだろうと思います。

それもまたその人にとっては正しい反応であるのだと思います。

兎に角田中泯の踊りを見て自分が何を感じるか試して欲しいと思います。

それで自分でも知らなかった扉を開く事が出来るのなら、

試してみない手は無いと思います。