画像引用:© 1991 Hotaru Okamoto, Yuko Tone/Isao Takahata/Studio Ghibli, NH
こんにちは!ころっぷです!!
今日の映画は【おもひでぽろぽろ】です。
1991年公開の高畑勲監督作品。
キャッチコピーは「私はワタシと旅に出る」
60年代の子供時代の思い出と、
80年代の大人の女性の自立を描いた、
情緒豊かなアニメーション映画です。
この映画はこんな人におススメ!!
●子供の頃が懐かしい人
●60年代の雰囲気を味わいたい人
●田舎に旅に行きたい人
●自分の人生の過渡期にいる人
タイトル | おもひでぽろぽろ |
製作国 | 日本 |
公開日 | 1991年7月20日 |
上映時間 | 119分 |
監督 | 高畑勲 |
出演 | 今井美樹、柳葉敏郎、 本名陽子、山下容莉枝、増田裕生 |
過去の自分に背中を押して貰いたい時に観る映画
今回はスタジオジブリの長編アニメーション映画のおススメです。
1987年に発表された岡本蛍原作・刀根夕子作画の漫画を原作に、
巨匠高畑勲が脚本・監督を担当しました。
27歳の独身OLが小学5年生の時のおもひでと共に、
山形の田舎に旅をする10日間の出来事を描いた作品です。
丹念な生活描写。
60年代の懐かしい風習や文化。
子供心の複雑な移ろいと大人の女性の自立。
都会暮らしと田舎暮らしの対比。
子供達に胸躍る冒険物語を披露していきた宮崎駿監督とは対照的に、
この作品は大人向けな内証的かつ文学的な作品になっています。
深い人間洞察と、誰の心にもある様な共感を呼ぶ繊細な描写。
行間の作家と呼ばれる高畑監督の味わい深い物語作りが光る秀作です。
とは言え作品はユーモアに溢れていて、思わず笑ってしまうシーンも満載。
笑いと涙のエンターテイメント作品でもあるのです。
おもひでの中の自分
画像引用:© 1991 Hotaru Okamoto, Yuko Tone/Isao Takahata/Studio Ghibli, NH
遠い過去の記憶。
忘れ去っていた懐かしい日々がぽろぽろと溢れ出してくる旅の中の日常。
主人公の岡島タエ子は東京で一人暮らしをする独身OL。
休暇を使って姉の夫の実家である山形を訪れます。
タエ子は田舎での暮らしの中で過去の自分と向き合い、
そしてこれからの自分について考えます。
人間は皆自分に無いものの事ばかりを考えたりします。
都会生活者には無いもの。
独身女性には無いもの。
こうであったかも知れない過去の自分。
しかし結局そうはなれなかった自分。
この映画は誰の心にもある懐かしい日々の自分が、
そっと今の自分の背中を押してくれるという物語なのです。
過去の笑えるエピソードも、許せない様なトラウマも、
悲しい結末も、理解出来なかった出来事なんかも。
全てが今の自分を作った構成要素であり、
この先の未来を照らしてくれる道標の灯りともなってくれるのです。
将来に不安があったり、現状に満足出来ない様な人にとって、
一番の味方になってくれるのはやっぱり過去の自分自身だという事。
高畑監督は生き辛い社会で生き方に迷う現代人に、
優しく、時に厳しくそっとエールを送ってくれています。
どんな道であろうと、失敗も成功もあるし、
後悔も苦悩もする。
しかしその道は過去の自分が照らしてくれているから、
前に進むべきなんだというメッセージ。
それを説教臭くなる事無く、
ユーモラスなエピソードの積み重ねによって表現出来る様な作家は、
今の映画界には中々いないのでは無いでしょうか。
爽やかな、かをり
今日のおつまみは【揚げ豚の柑橘ソース】です。
豚肉の薄切りに小麦粉をまぶして揚げ焼きし、
カルディで売っていた「オレンジソース」をかけました。
更に柚子の皮をトッピングして「かをり」をマシマシ。
【おもひでぽろぽろ】に影響されて、
旧仮名遣いでの「かをり」付け。
おもひでからの旅立ち
画像引用:© 1991 Hotaru Okamoto, Yuko Tone/Isao Takahata/Studio Ghibli, NH
鬼才と呼ばれた高畑勲監督が世に遺した作品の中でも、
今作は比較的分かりやすいエンターテイメント性のある作品だと見做されています。
しかし実はこの作品にも、
高畑監督らしい批判性と時代への深い考察がふんだんに盛り込まれています。
主人公のタエ子は都会生活の中でやや物足りなさを感じている女性なのですが、
彼女の田舎に対するイメージが、事あるごとに少し上から見ている様な、
誤解と偏見に凝り固まっている部分が目立つのです。
悪意がある訳では無く、それは極当たり前の現代人のイメージなのかも知れませんが、
それが暗に表現しているのは人間の根底にある断絶、不寛容や不理解という事になります。
タエ子の小学5年生の時の記憶のエピソードでも、
男女間の価値観の違いや、家族の中での年齢的な断絶、家長封建的な不理解や、
友人間でのヒエラルキーなどの描写が散見出来ます。
単なる微笑ましい昔話だと思っていると意外に痛い所を付いてくる様な所が、
高畑監督の人間観、鋭い批判精神なのでは無いでしょうか。
田舎に住む人達に対する無意識な所で下に見ている態度。
それは小学生の時に貧しい男の子に対する偽善の態度を見透かされたエピソードとに
通底するタエ子の人間性の未熟さとして描かれています。
山形で有機農業に勤しむ青年、トシオとの出会いによってそんな過去の自分と向き合い、
成長していくタエ子。
おもひでからこれからの自分への旅立ちが、
実に清々しいエンディングへと繋がっていきます。
過去の自分に背中を押して貰いたい時に観る映画。
人は思い悩んだ時、思わぬ過去のおもひでに背中を押される様な事があります。
高畑監督の描く人間観は時に厳しいですが、その実とても優しく肯定的でもあります。
私達の人生に何時でも帰って来られる「おもひで」の様な
映画を遺してくれた監督に、ただただ感謝したいと感じました。