画像引用:C)ITAMI Production
こんにちは!ころっぷです!!
今日の映画は【タンポポ】です。
1985年公開の伊丹十三監督の第二作品目。
西部劇を下地にした小気味良い展開のストーリー。
脈絡なく差し込まれるシュールな挿話の数々。
既成概念に捉われない新しい映画の可能性を模索し続けた、
伊丹監督の傑作コメディ映画です!!
この映画はこんな人におススメ!!
●ラーメンが好きな人
●癖のある俳優が好きな人
●80年代の空気を感じたい人
●食というものについて考えたい人
タイトル | タンポポ |
製作国 | 日本 |
公開日 | 1985年11月23日 |
上映時間 | 115分 |
監督 | 伊丹十三 |
出演 | 山﨑努、宮本信子、渡辺謙、 役所広司、安岡力也、 |
日本映画の伝説を目撃したい時に観る映画
今作は夜中に観るとラーメンが必ず食べたくなるのでお気を付け下さい。
日本映画に強烈なインパクトを残した伊丹十三監督の傑作コメディです。
この映画は小さい頃に観て強烈に記憶に残っていたのですが、
サブスクにもレンタルでも見掛けないので、
もう一度観たくても諦めていたのです。
それが何てことない、YouTubeに全篇上がっていました。
久し振りに鑑賞してやっぱり傑作だなぁと再確認しました。
基本的な構成はアメリカの西部劇の様な展開をしております。
弱きを助け、強きを挫くさすらいのヒーロー達が、
人助けをしてカッコ良く去っていく。
ただそのモチーフがラーメン店の再興という意外性に加え、
細部にまで徹底されたディティールの素晴らしさと、
謎の挿話が何の脈絡も無く入ってくるシュールで前衛的な作り。
分かりやすいのに奥深く、理解し難いのに面白い。
人を喰った様な独特の感性とユーモアで強烈に観る者を惹き付けていく。
伊丹十三という天才監督の手の平で転がされている内に、
「食」と「性」と「生」というテーマが様々な思索を促していきます。
現代のコンプライアンスや尺度では計れない、
「知」と「センス」と「思考」の塊であった才人・伊丹十三の、
馬鹿々しくも、熱い物語に夢中になる事間違い無しの作品です。
市井の人々の悲喜こもごも
画像引用:C)ITAMI Production
物語はタンクローリー運転手のゴロー(山﨑努)とガン(渡辺謙)が、
一軒の寂れたラーメン屋に偶然立ち寄る所から始まっていきます。
そこは亭主に先立たれ小学生の息子を女手一つで育てるたんぽぽ(宮本信子)という
女性が一人で切り盛りする店。
しかしその肝心のラーメンが酷く不味い。
ゴローは成り行きでガラの悪い常連客ピスケン(安岡力也)と喧嘩になり、
ボロボロになった所をたんぽぽに介抱して貰ったその恩を返す為に、
このラーメン屋を繁盛店にする決心をするのです。
この大作戦に集まってくる曲者の面々がまた魅力的なのです。
グルメなホームレス達を取り纏める元産婦人科医のセンセイ(加藤嘉)。
ラーメンへの造詣が深い金持ちのお抱え運転手のショーヘイ(桜金造)。
これらのメンバーが次第に集まって得意分野で力を発揮する様は、
まるで黒澤明監督の【七人の侍】のようでワクワクします。
更に今作には本編とは直接関係の無いいくつもの挿話が唐突に差し込まれ、
その一つ一つのエピソードが実に滑稽で味わい深いのです。
それぞれに豪華なキャストが配されていて、
映画・舞台・テレビの垣根を越えた実にバラエティー豊かな顔ぶれは
伊丹十三監督だからこそ成せるキャスティングです。
この前衛的な挿話の共通点は皆「食」がテーマに置かれている点です。
あらゆる角度から人間の根源的な「欲」を描いていて、
市井の人々の悲喜こもごもが渾然一体となって大きな物語を形作っていくのです。
まさに神の手によるフルコース演出とも言える独創性。
ここでも常識の範疇に収まらない伊丹監督の天才的な才を感じます。
ラーメンは国民食です
今日のおつまみは勿論【ラーメン】です。
これ以外考えられないですよね。
ラーメンの起源は中国料理かも知れませんが、
今日のラーメン文化はもう完全に和食文化ですね。
正に国民食です。
インバウンドでもラーメンが一番人気ですしね。
全国にご当地の味があり、誰もに一家言がある料理なんて他に無いですもんね。
本当にラーメンは偉大です。
生きる事これ即ち食べる事
画像引用:C)ITAMI Production
この映画の美点は「悪人」がいない事だと思うんです。
ライバルのラーメン店が出てきたり、挿話の中には犯罪が描かれていたりしますが、
基本的にどうしようもない「悪人」は目に付きません。
全員が「善人」という訳でもありません。
でも殆どのキャラクターが人間臭いんですよね。
これが本当に観ていて良いんです。
昭和を感じつつ、80年代のシニカルなブラックユーモアもある。
辛辣なギャグもあるし、シュール過ぎてよく意味の分からない描写もあるんです。
でもそこに「悪意」がなく「気取り」も無いのが良い。
実に快活で素直で愛らしいのです。
そもそもコメディ映画ですから笑ってもらうのが本望なのですが、
馬鹿馬鹿しいだけだったり、下品なだけだったりしたら駄目なんです。
本気で下らない事をするから、超越したカッコ良さが滲むんですよね。
意味の分からない白服の男を演じる役所広司が何故か撃たれて壮絶な死を迎えるんですが、
その有り得ない位の熱演が度を越していて可笑しい。
それが馬鹿馬鹿しいを越えたロマンに昇華しているのです。
たかがラーメン、されどラーメン。
全ての哲学は「生」つまり食べる事から始まるという深いテーマなんですね。
日本映画の伝説を目撃したい時に観る映画。
今では考えられない様な豪華なキャスト達が、
本気を出して遊んでいる狂気的な映画です。
公開から40年以上経って尚、今日まで様々な逸話が語られ続ける伝説の映画です。
伊丹監督は数々の作品で人を喰った笑いと鋭い批判精神を発揮されました。
今の何かとうるさい世の風潮では、
彼の様な圧倒的な作家性を見せるのは困難なのかも知れませんが、
せめて日本映画の伝説を若い世代にも味わって頂きたいと、
切に願う今日この頃です。