サスペンス映画

映画【ナイトクローラー】おつまみ【鶏軟骨の唐揚げ】

画像引用:© 2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

この映画はこんな人におススメ!!

●スキャンダルやゴシップが好物の人

●マスコミ報道に一家言ある人

●狂気に憑かれた人間が見たい人

●上昇志向の成れの果てを観たい人

タイトルナイトクローラー
製作国アメリカ
公開日2015年8月22日(日本公開)
上映時間118分
監督ダン・ギルロイ
出演ジェイク・ギレンホール、レネ・ルッソ、
リズ・アーメッド、ビル・パクストン

狂気の世界に一歩足を踏み入れたい時に観る映画

これは強烈な映画です。

我々観客の倫理観を試される様な、

それでいて人間の承認欲求の成れの果てを思い知らされる様な、

複雑で何とも言えない苦い後味を残す作品に仕上がっています。

監督はこれがデビュー作のダン・ギルロイ。

今作で狡猾ながら人間味あるニュースプログラムのディレクターを演じた、

ベテラン女優のレネ・ルッソの夫でもあります。

元々脚本家出身で、1994年公開のデニス・ホッパーが監督した【逃げる天使】や、

2006年公開のファンタジー映画【落下の王国】などで評価を受けていました。

そして今作で強烈な印象を残した主演が、

今や憑依型俳優の代名詞と個人的に思っているジェイク・ギレンホール。

体重を9キロも落とし主人公の狂気を表現した彼は、

ホアキン・フェニックスやライアン・ゴズリング等と並んで、

現代のハリウッドに於ける実力派俳優の地位を確実なものにしました。

チャンスに恵まれずに燻っていた男が、

適正を得て目を見張る成功を手にしていくストーリーは、

一見するとサクセスストーリーの様なのですが、

度を越えた上昇志向や承認欲求が思わぬ悲劇を招きます。

現代の迷惑系ユーチューバーや炎上商法にも通じる、

マスメディアやネット社会の問題点を先取りした様な、

鋭い社会風刺と問題提起が含まれた作品になっています。

一線を越えた使命感

画像引用:© 2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

物語の主人公ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)は、

自分の才能を活かす場を見出せずにコソ泥稼業で燻っている男でした。

そんな彼がある日偶然遭遇した自動車事故現場で見た報道カメラマンの姿。

テレビ局に事故や事件の現場の映像を売るというビジネスに自分の可能性を感じるのです。

テレビ局がニュースショーで求めるのは視聴者の恐怖を煽る過激な映像。

陰惨であればある程人の好奇の目を集め視聴率に繋がるという現実を知り、

ルイスはより過激な映像を撮る為に次第に倫理の壁を越えていってしまいます。

その中でも象徴的だったのは自動車事故の現場に警察や消防よりも早く駆け付けた時、

より映像的に見栄えする様に倒れていた事故当事者の遺体を、

引き摺って画角に収めようとするシーン。

それは事故当事者を人では無く物として扱う主人公の狂気が垣間見えます。

同業者を出し抜き、自分の映像を高く売り込む為に、

ルイスは人として超えてはならない一線を越えてしまうのです。

何をやっても上手くいかなかったこれまでの人生。

しかし報道パパラッチという職業に自分の適性を感じ、

他人の不幸を嬉々として追い掛ける様になってしまったルイス。

そこに歯止めは効かず更なる過激な映像を求め、

終わりの無い狂気の世界にはまり込んでいってしまうのです。

テレビ番組のヤラセやフェイクドキュメンタリーなどが日本でも騒がれましたが、

作り手達の過激化の一端は視聴者の過激性を求める心理に要因があります。

話は飛びますが、大谷翔平がヒットを打ってもあまり驚かないのと同じで、

人の期待や満足は常に刷新されていくので、

ニュース映像も過激化の一途を辿ってしまうのです。

そこに越えてはならない一線があったとしても、

彼等は自分達の存在価値を死守する為に越えてしまうのです。

おつまみの存在価値

今日のおつまみは【鶏軟骨の唐揚げ】です。

おつまみとは無論お酒のお供として存在するものですが、

人間の飽くなき欲望がここでもより過激なものへと渇望してしまうのです。

鶏軟骨を生姜醤油で下味を付けカラッと揚げてしまえば、

お酒の杯を止める事は不可能になっていきます。

そうすればまた更なるおつまみが必要になる。

そうやっておつまみの越えてはならない一線を今日も我々は踏み越えていくのです。

恐るべき食いしん坊の欲望。

薄っすらと見える付け合わせのポテトフライの姿もまた恐ろしいですね。

人間性の崩壊

画像引用:© 2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

全てのマスメディアの人間に良心が欠けているなどと言うつもりはありませんが、

テレビに限らず新聞やネットメディアに於いても倫理観の問題は根深いと感じます。

顔無き一般人達の好奇の目が彼等を過激化させているというのは先程も言いましたが、

事実を伝える事の本質的な意味とは何だろうかと、

もう少し突っ込んだ思索に踏み込んで考える必要がありそうです。

残念ながら私達は皆少なからず他人の不幸は蜜の味であるという所があります。

事故・事件の当事者達に向けられる好奇の目には、

自分でなくて良かったという身勝手な安堵感と優越感が潜んでいます。

人種差別や収入格差の激しいアメリカの対立構造は更に如実で、

私達日本人には想像も出来ない程の根の深い社会的な構造悪がある様に思います。

白人社会を脅かす有色人種の悪意という図式。

恐怖を煽る事で敢えて相互の中に対立意識を芽生えさせ、

社会に対する鬱憤をそれぞれに向けさせるメディアや政府の意図を感じずにはおれません。

映画の主人公ルイスは勿論そんな事まで考えてネタを追い掛けている訳ではありません。

彼の中にある使命感は実は純粋なもので、

成功や他人を出し抜く喜びは単純明快な承認欲求の現れで、

自分の正当性や優秀さを周りに認めさせたいという根っからの劣等感が、

彼を狂気に走らせてしまったのだと思います。

こういう人間を利用し、煽て、囃し立て、

過激な映像を撮ってこさせるメディアの罪は重いと思いますが、

やはりそれを嬉々として受け取る大衆の意識が最大の問題点であるのは、

アメリカも日本も同じ様です。

狂気の世界に一歩足を踏み入れたい時に観る映画。

自分の適性を仕事に活かせる事は本来喜ぶべき事なのですが、

人の不幸を喜び更にそれを捏造までする主人公の道徳観は完全に崩壊してしまいました。

恐ろしいまでにリアルにそれを体現したジェイク・ギレンホールの演技力。

緻密でサスペンスフルな脚本の力。

夜の闇を疾走感と共に切り取った撮影の迫力。

そして作品のテーマを各登場人物の中に表現し観客を引き込み続けた演出力。

全ての要素がレベルの高い仕事をしていて他に類の無いサスペンス映画になっています。

この映画を観てメディアやニュースとどう向き合うべきなのか。

一人一人が考えるキッカケになれば更に意義のある作品であると思います。