ヒューマンドラマ

映画【6才のボクが、大人になるまで。】おつまみ【皿うどん】

画像引用:©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.

この映画はこんな人におススメ!!

●何気ない日常の掛け替えのなさを体感したい人

●嘗ての自分の子供時代を思い返したい人

●家族というものについて改めて考えたい人

●他人の人生に深くコミットしてみたい人

タイトル6才のボクが、大人になるまで。
製作国アメリカ
公開日2014年11月14日(日本公開)
上映時間165分
監督リチャード・リンクレイター
出演エラー・コルトレーン、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク

時の流れを慈しみたいと思った時に観る映画

今作は映画の長い歴史の中でも、

極めて特異な実験精神に富んだ作品だと思います。

例えば一人の人間の人生を描きたいと思った時、

通常は子役が子供時代を演じ、若い俳優が青年期を演じ、

ベテラン俳優が晩年期を演じたりします。

映画とは基本的には見せるべきシーンだけを掻い摘んで、

その集合体で一つのテーマを描くものだからです。

しかし今作を生み出したリチャード・リンクレイターという監督は、

一風変わった独自の「時間感覚」を持った監督なのです。

彼の名を一躍有名にしたのが、

1995年の【ビフォア・サンライズ 恋人までの距離】というラブストーリーです。

そしてその9年後の2004年に公開された【ビフォア・サンセット】と、

さらにその9年後の2013年公開の【ビフォア・ミッドナイト】は、

同じ俳優が実際に9年の時を経て同じ役を演じるという奇抜なアイデアで、

時の流れを観客と共に体験させる事に成功したシリーズなのです。

そしてこの奇跡的な映画体験を一本の作品で味わえるのが、

この【6才のボクが、大人になるまで。】という訳です。

12年もの長きに渡り、

毎年夏の数週間を撮影に当てて、

主役の少年が成長する様を記録し続けてきました。

俳優である彼等自身の変化が役柄にも大きな影響を与え、

それと共に物語の展開も大きく変化してきたのです。

それはまるでドキュメンタリ―フィルムを見せられている様な、

私達観客を物語と無関係ではいさせなくする様な

圧倒的な没入感を与えてくれるのです。

正にフィクションの限界に挑戦するかのような、

映画の常識を覆す画期的な実験映画なのです。

人生とは瞬間の積み重ね

画像引用:©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.

物語の中心にある一つの家族。

彼等は決して特別では無くごくありふれた「普通」の人々です。

その日常も大きな事件が起きる訳ではありません。

勿論局部的に見れば変化があり、

困難もあったり、或いはささやかな喜びもあったりしますが、

そこにあるのは膨大な時間の蓄積、他愛のない瞬間の積み重ねなのです。

しかし本来テーマやメッセージを都合の良い形で手際よく、

作為的に抜粋するのが映画というものなのに対し、

この映画はありのままの「時間」を同一視点で傍観させ続ける事によって、

この家族の「時間」そのものと私達観客との間に、

密接な関係性が構築されていくのです。

それは小説でも映画でもテレビドラマでも体験する事の出来ない様な、

言わばもう一つ別の人生を疑似体験している様な、

大袈裟に言えばそれに近い感覚なのかも知れません。

更に今作は2002年から2013年の間に撮影されたのですが、

2001年に起きた9・11以降のアメリカの近代史が、

物語に色濃く影響を与えている点もまた特筆すべき特徴だと思います。

この家族は母親の再婚を契機に生活に何度かの大きな変化が起こりますが、

アメリカ社会もその都度大きな変革があった訳で、

ごく当たり前のこの家族にもやはり少なくない影響を与えているのです。

当たり前の事ですが12年間の撮影期間中に、

何が起きるかなんて誰にも分からない。

戦争だって起きるし、大統領選挙だってある。

車と家具も家電製品もゲームも変わっていくし、

携帯電話からスマホになっていたりもする。

現代から過去を懐古的に表現するのではなく、

全てが当時のリアルタイムに描写したものだからこそ、

何にたいしても説得力があって実在感がある。

当たり前の事かも知れませんが、そんな事が可能なのはこの映画だけなのです。

おつまみの時の流れ

今日のおつまみは【皿うどん】です。

具沢山の満腹メニュー。

昔から何故かこの揚げ麺が大好きだったのですが、

今日は随分久し振りに食しました。

大人になるという事は食の好みにも変化があります。

子供の頃好きだったものを余り食べなくなったり、

その逆で嫌いだったものが好物になったり。

本当不思議なものですよね。

おつまみにも時の流れというものがあるんですね。

取り敢えず元気に食べて飲み続けられる様に、

体調管理に気を付けたいと思います!

人生は過ぎ去らない

画像引用:©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.

映画制作に於いてとても大きな要素が編集です。

撮影した素材を切ったり貼ったり削ったり。

今ではCGで合成したり補正したり何でも出来るのです。

しかし私達の人生は残念ながら編集作業というものが出来ません。

リアルタイムに押し流され続ける不可逆性の中、

もう一度やり直したり、余計な部分をカットしたりと

都合良い状態で完成作品を納品する事は出来無いのです。

この映画もそれまで撮影した素材の上に積み重ねる事しか出来ません。

ちょっと前のシーンのあの台詞今では都合悪くなってしまったから、

撮り直そうと言っても俳優をまた子供に戻す事は不可能です。

それはある意味で映画の「魔法」を自ら封じる様な苦行でもあるのです。

しかしその不自由さの中からしか生まれない

リアリティというものが絶大な説得力を生む。

それは丁度私達の人生が不自由で思い通りに行かないのと同じ様に。

人生とは大抵の時間がただ何となく過ぎ去ってしまうもの。

そしてそれを一々惜しい事をしたと覚えてもいない。

本当はつぶさに見れば素晴らしい事が沢山起こっていたのに、

悉くそれを忘れていってしまう。

この映画を観ていてつくづく実感したのは、

「時間」というものが押し流していくのはあくまで「時間」だけであって、

私達の「人生」はいつだって立ち止まって慈しむ事が出来るという事だ。

主人公の少年が青年へと変化していく中で、

唯一定点の様に変わらないのがイーサン・ホーク演じる父親。

彼は息子がいくつになっても下らない事で笑い掛け、

軽口を叩きながらそっと寄り添おうとする。

決して褒められた人格者という訳では無いが、

過ぎ去る「時間」の中で「人生」を感じさせてくれる

貴重な存在になり得ているのです。

時の流れを慈しみたいと思った時に観る映画。

個人的には2000年代以降洋楽が好きになった自分の青春期とリンクした

サウンドトラックがかなりツボの選曲で嬉しい映画でした。

コールドプレイの「イエロー」に始まり、

アーケイドファイアの「ディープ・ブルー」に終わる。

共にフジロックで観たバンドの音楽が、

自然と自分の人生の移り変わりと重なって実に感慨深かったです。