画像引用:©日活
こんにちは!ころっぷです!!
今日の映画は【幕末太陽傳】です。
1957年に公開された日活のオールスターキャストのコメディドラマ。
夭折の天才川島雄三監督の代表作で、
日本映画史に燦然と輝く歴史的傑作です。
落語の「居残り佐平治」を下敷きにした軽妙な脚本と、
主演のフランキー堺などの演技巧者達のアンサンブルが絶品の作品です!
この映画はこんな人におススメ!!
●日本の時代劇が好きな人
●落語が好きな人
●昭和の大スター達の共演が観たい人
●人間の力強い生き様を味わいたい人
タイトル | 幕末太陽傳 |
製作国 | 日本 |
公開日 | 1957年7月14日 |
上映時間 | 110分 |
監督 | 川島雄三 |
出演 | フランキー堺、左幸子、南田洋子、 石原裕次郎、芦川いづみ、小林旭 |
日本映画の伝説を目撃したい時に観る映画
今回は日本映画の歴史に大きなインパクトを与えた傑作時代劇のおススメになります。
1957年公開と言うと70年近くも昔の映画になりますが、
全く古臭さを感じさせない軽妙且つお洒落な作品に仕上がっています。
物語の下敷きは落語で有名なお題目、
「居残り佐平治」「三枚起請」「品川心中」「お見立て」などの所謂廓話をミックス。
七五調のテンポの良い台詞回しは、
まるで落語の名人の高座を観ている様な気にさせてくれます。
監督は46歳という若さでこの世を去った夭折の天才川島雄三。
脚本はその川島雄三と長らく昭和の名脚本家として腕を振るった田中啓一、
そして川島監督の弟子で後に日本映画界を代表する監督となる今村昌平です。
音楽は戦後の日本の現代音楽の巨匠黛敏郎。
撮影は日活の黄金期を支えた名カメラマン高村倉太郎。
正に豪華一流のスタッフが結集した超大作なのです。
幕末の品川宿の遊郭を舞台に、
多くの人物が入れ替わり立ち替わり登場するグランド・ホテル方式の今作では、
フランキー堺や左幸子、南田洋子や石原裕次郎などが豪華なアンサンブルを見せています。
滑稽で浅はかな人間の悲喜こもごもをテンポ良く描き、
且つそのエネルギッシュな生き様を躍動感たっぷりに表現し、
シニカルでブラックなジョークで笑わせ、
深い人間考察で観る者を唸らせる。
圧倒的なエンターテイメント映画に仕上がっています。
バイタリティの塊、世紀の人たらし

画像引用:©日活
今作の最大の魅力は何と言ってもフランキー堺演じる佐平治のキャラクターにあります。
口先の処世術一つで無銭飲食者が遊郭一の人気者になってしまう。
あの【男はつらいよ】シリーズで渥美清が演じた車寅次郎よろしく、
いつの時代もバイタリティ溢れる人たらしは最強です。
ああ言えばこう言うでノラリクラリと人を煙に巻き、
気が付けば何もかも美味しい所をかっさらっていってしまう。
落語の世界でもこう言った与太者や幇間の類の人間の活躍を
面白おかしく描く噺が多いですが、
チャキチャキのべらんぼう調で捲し立てる今作の佐平治の、
キャラクターの立ち方は尋常ではありません。
この軽妙且つ小気味良い芝居を主演のフランキー堺は、
当時若干28歳で演じていたというから本当に驚きです。
物語は品川の遊郭で散々どんちゃん騒ぎした挙句、
無一文である事を棚に上げ御用聞きとして人気者になっていく佐平治を中心に、
そこで働く女郎達や出入りする客達の悲喜こもごもを、
テンポ良く矢継ぎ早で描いていきます。
そこには英国公使館焼き討ちを企む高杉晋作ら長州藩士達が絡んだり、
遊郭の与太息子と貧しい女中の駆け落ちを挟み込んだりとまた芸が細かい。
アイディアの限りを尽くした物語の組み立てがセンスの塊で、
落語を知っているとまたニヤリとする設定が随所に隠れていたり。
何度観ても飽きさせない工夫が全編に散りばめられているのです。
当時映画会社との確執で相当にいきり立っていたという監督の川島雄三が、
自身の才能をフルスロットル全開で示しその実力を見せつけた様な気概を感じます。
特に左幸子と南田洋子が演じる遊郭女郎の両板頭が、
互いの意地とプライドを掛けた髪を掴み、投げ飛ばしのキャットファイトシーンは、
映画史に残る迫力の名場面です。
おつまみのちゃんぽん

今日のおつまみは【チャンポン麺】です。
寒い夜に温かい麺類は格別ですね。
今回の具材はキャベツともやしと木耳の入った野菜ミックスに、
豚バラ肉と蒲鉾。
小葱といりごまを散らしています。
オールスターキャストが入り乱れる映画を観ながら、
具材のちゃんぽんを味わうという趣向でした。
いつか本場長崎で食べてみたい!
映画的業の肯定

画像引用:©日活
個人的に今作は圧倒的邦画オールタイムベストなのですが、
チャンバラでも無いモノクロ時代劇が何故これ程人を惹き付けるのか。
今回コラムを書く為に観直してみてハッキリと分かったのは、
これは落語と通じる人間の業の肯定である為なのでは感じました。
故立川談志師匠の落語に於ける名言ですが、
どんな人間の行いであってもそれを是として笑い飛ばす優しさ。
コンプライアンスで雁字搦めになった現代社会では中々難しいのかも知れませんが、
馬鹿な奴ほど可愛げがあるという些か時代錯誤な古い価値観が、
何とも言えず心に染みるのもまた事実なのです。
人は時には過ちを犯します。
狡く卑しく醜い生き物です。
しかしそれは一皮剥けばあなたも私ものお互い様。
目くじら立てて誹謗中傷に勤しむのも結構ですが、
笑ってしまって後はきれいさっぱり水に流すってのが
江戸っ子の流儀でもあったのでは無いでしょうか。(私は江戸っ子ではありませんが)
そう言った事を考え始めるとこれは中々深い物語でもあります。
主人公の佐平治は底知れないお調子者に見えて、
時にとても冷静に世の中を値踏みする様な鋭い風刺性を感じさせます。
それが70年後の日本に向けた川島雄三の反骨精神なのかも知れません。
日本映画の伝説を目撃したい時に観る映画。
超一流のスタッフとキャストの奇跡的なパフォーマンスが封じ込まれた一作。
映画ファンであればまず必見の作品であるかと思いますが、
今作は誰が観ても笑えて楽しめる大衆ドラマでもあります。
無論堅苦しい文芸映画なんて代物ではございやせん。
老若男女問わず、皆々様の明日の活力と相成る為をば、
この抱腹絶倒の「重喜劇」を是非一度お目に掛けたくひとつまみ申し上げ候なり。
おあとがよろしいようで。