ドキュメンタリー映画

映画【くるりのえいが】おつまみ【ポークジンジャープレート】

画像引用:©️2023「くるりのえいが」Film Partners

この映画はこんな人におススメ!!

●くるりのファンの人

●ロックバンドの音楽制作現場に興味がある人

●曲が生まれる瞬間を目撃したい人

●永遠の少年達の笑顔が見たい人

タイトルくるりのえいが
製作国日本
公開日2023年10月13日
上映時間112分
監督佐藤岳利
出演岸田繁、佐藤征史、森信行
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原点に帰りたい時に観る映画

1998年に「東京」という楽曲でメジャーデビューした京都出身のバンド「くるり」。

それから早四半世紀以上に渡って、

日本の音楽シーンに多大な影響を与えてきた偉大なロックバンドの、

正に原点回帰とも言える新たなアルバムの制作に密着したドキュメンタリーです。

長い活動の歴史の中で、

アルバムを発表する度に多様な変化と進化を続けてきた唯一無二のバンド「くるり」。

そんな彼等の音楽制作の裏側を至近距離で目撃出来るというだけで、

鼻血がでる位に興奮MAX状態なのですが、

鑑賞後はまさかの放心状態。

人間が何かを表現する時に、

これ程までに抜き身で自由であるのかと涙が出る程に感動しまくりました。

もう個人的に好き過ぎるバンドの映画なので、

客観的なレビューなど不可能なのですが、

音楽が生まれるその瞬間の震える様な感動が味わえるというだけで、

全人類必見の映画であると断言出来ます。

プロの仕事人達が、

そのクリエイティビティの原点に立ち返った、

純度100%ピュアな音楽への思索の旅。

心の底から音楽っていいなぁと思える映画になっています。

くるりとは何か?

画像引用:©️2023「くるりのえいが」Film Partners

「くるり」のフロントマンである岸田繁という人物は、

その音楽への異常なまでの拘りの強さ故に、

若かりし頃は「暴君」であるとか「完璧主義者」とかいうレッテルを貼られ、

気難しい芸術家肌のミュージシャンであるとされてきました。

またバンドの多様な音楽性は、

アルバムを発表する毎にまるで別のバンドの作品の様な変貌振りで、

一筋縄では行かない通好みのバンドとして日本の音楽界に於いても、

一種特異な存在と見做されています。

所謂ロックンロールのスタイルや、

フォークミュージック、ダンスミュージック、ブルースやジャズにR&Bの要素。

時にはヒップホップに美しい旋律を響かせるクラシックの素養も感じさせます。

正にごちゃ混ぜのごった煮。

「くるり」というバンドが唯一無二の存在である事は、

この映画のセッションやライブシーンでも如実に表れています。

そんな彼等が長いキャリアの原点に立ち返る為に、

結成当時のメンバーである三人で新しいアルバムを作るというのが、

この映画の大きなテーマである音楽の初期衝動という所に繋がっていきます。

どんな仕事でもキャリアを積むとその経験値から多くの選択肢が生まれ、

テクニックの上昇によって合理的に器用な物を作れる様になります。

バンドも商業的な成功を追う時に、

自分の中の創作意欲とは別次元の商品が必要になる事が必ずあるのです。

どこを向いて音楽をやるのか。

「くるり」という稀有なロックバンドに於いても、

その活動の初期衝動、あの頃の感覚を取り戻したいという思いは、

語られる言葉以上に切実なものだったのかも知れないと感じました。

リスナーに求められるものと、

自分達がやりたいものとの狭間で、

或いは売れるものと、

自分の本来の姿との間にいつの間にか居座っているギャップ。

その言葉にならないフラストレーションを打破する為の鍵が、

原点回帰だったのかも知れません。

何度も生まれ変わってきた「くるり」というバンドだからこそ辿り着いた、

そんな景色が新しいアルバムには詰まっているのです。

おつまみの原点回帰

今日のおつまみは【ポークジンジャープレート】です。

正におつまみの王道、

ご飯の友の王様。

原点回帰の基本中の基本。

それがポークジンジャーなのです。

「くるり」の名曲「バラの花」の歌詞に、

「ジンジャーエール買って飲んだ、こんな味だったっけな」

というのがありますが、

正に生姜のピリっとした味わいはあの頃の記憶を彷彿とさせる、

懐かしさの感覚と直結する様な気がします。

日本人のDNAに刻み込められた、

原点回帰のおつまみに相応しい一皿です。

音楽が生まれる瞬間

画像引用:©️2023「くるりのえいが」Film Partners

映画の中で、アルバム制作の初期段階のジャムセッションのシーンがあります。

岸田繁は映画の中でも最初の音を出す時が重要であると語っていますが、

「IN YOUR LIFE」という楽曲の制作過程に於いて、

向かい合わせでスタジオに陣取ったメンバーの三人はおもむろにじゃんけんをします。

そしてじゃんけんに負けたベースの佐藤征史の弾いたベースラインに、

すぐさま岸田繁のギターと森信行のドラムが乗って、

その流れのままに鼻歌のメロディラインまで一気に積み上げられていきます。

これは正に音楽が生まれる瞬間を捉えた貴重な映像です。

三人の研ぎ澄まされた感覚が互いに呼応して、

みるみる内に曲の形になっていく。

完成した楽曲と聞き比べても、この瞬間に既に完成形の予感が音の中に確かにあります。

これがバンドの力なんだとまざまざと見せつけられるシーンでした。

音楽とは天から降って来る物では無く、

人間のグルーブの中から生まれるものなのだと再認識させて貰いました。

人が生きていく中で感じる怒りだったり、悲しみだったり、喜びだったりが、

身体から自然に楽器に伝わって空気を震わせていく。

言葉では無く音で繋がっているのがバンドマンなんだなと教えられた様な気がします。

原点に帰りたい時に観る映画。

音楽に限らず何かをずっと続けていると、

本来何の為にそれをやっていたのか、

見失ってしまう時が必ずあるものです。

特に物を作る様な仕事であれば、

好きでやっていた頃の気持ちを、

そのまま持って生きていくのは困難な事なのではないでしょうか。

「くるり」の歴史にも人知れずの苦難が山の様にあった筈です。

そんな長いキャリアのこの瞬間に、

原点に帰る為に集まった三人のもがきが克明に記録された今作には、

苦しみの果てに辿り着く歓喜の瞬間が何度も映し出されています。

それは音楽というものが人間に与え得る原初的な喜びに近い様な気がします。

それを素直に体現出来るからこそ、

「くるり」というバンドは特別なのだと再認識出来ました。

これからも「くるり」の音楽が楽しみで仕方ありません。

未聴の方、これからの楽しみが無限なので羨ましい限りです。

是非、彼等の楽しくて優しくて激しい音楽を聴いてみて下さい。