アニメーション映画

映画【ソング・オブ・ザ・シー 海のうた】おつまみ【漬けまぐろ】

画像引用:© 2014 – Cartoon Saloon – Melusine Productions – The Big Farm – Superprod – Nørlum

この映画はこんな人におススメ!!

●神話や民話が好きな人

●美しい絵が観たい人

●ハラハラドキドキの冒険物語が好きな人

●忘れていた童心に帰りたい人

タイトルソング・オブ・ザ・シー 海のうた
製作国アイルランド、ルクセンブルク、ベルギー、
フランス、デンマーク
公開日2016年8月20日(日本公開)
上映時間93分
監督トム・ムーア
出演デビット・ロウル、ブレンダン・グリーソン、フィオヌラ・フラナガン、リサ・ハニガン、ルーシー・オコンネル
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冒険の旅に出てみたいと思った時に観る映画

今作の監督、アイルランド出身のトム・ムーアは、

スタジオジブリの作品に強い影響を受けているそうです。

特に宮崎駿監督の【となりのトトロ】や【もののけ姫】を好きな作品に挙げています。

第87回アカデミー賞でも長編アニメーション賞にノミネートされ、

世界中から高い評価を受けました。

独特の輪郭線と鮮やかな色彩で描かれた背景画。

ダイナミックで愛らしい動きのアニメーション。

古い民話から着想を得た壮大な物語。

そして現代の観客にも通じる普遍的な「家族愛」を描いたプロット。

正に子供から大人まで夢中にさせる圧倒的な求心力を持った作品なのです。

普段我々にはあまり馴染みの無いアイルランドやスコットランドの風土性。

それがスタジオジブリの作品やディズニー作品に慣れている私達には非常に新鮮で、

素朴な手触りを感じる様な映像に心奪われてしまいます。

ファンタジー色の強い寓話なのですが、

そのメッセージ性は現代社会に強く響き、

少年の成長と家族の絆を描いた普遍性を兼ね備えています。

正に新感覚と言うに相応しいアニメーション体験。

世界広しと言えども、ここにしか無い驚きと興奮に満ちた作品になっています。

忘れ去られた世界の復古

画像引用:© 2014 – Cartoon Saloon – Melusine Productions – The Big Farm – Superprod – Nørlum

物語は灯台に暮らすある一家の話。

主人公のベンは母親が枕元で語る古い民話と歌が好きな少年。

愛犬の大型犬クーと共に楽しい日々を過ごしていました。

しかしある日、身重の母親が失踪し、その代わりに妹のシアーシャが突如現れます。

悲しみに打ちひしがれた父親は酒に溺れ、

孤独を募らせるベンも妹のシアーシャに辛く当たってしまいます。

冒頭は不思議な話ですが、現実的でもあり、

突然母親を失った家族の喪失感が漂っています。

6歳になったシアーシャは言葉を話す事が出来ません。

好奇心旺盛な所は子供らしいのですが、やがて自分の不思議な力に気付いていきます。

今作は妖精や魔女などが登場する民話的な物語になっていきます。

しかしアプローチが現代的なので古臭く感じる所はありません。

長い歴史の中で忘れられそうになっていた民話の世界観を、

見事に現代語訳して伝えてくれているのです。

ケルト音楽の美しい調べは、我々現代人の心の奥底に眠る神話性を呼び起こさせ、

信仰というものを本来的な身近なものに感じさせてくれます。

我々日本人も八百万の神々が住む国に生まれ育ち、

自然の中の万物に神が宿るという信仰を知らず知らずの内に受け継いでいます。

普段意識はしていなくても、神や仏を怖れ敬う心は自然と備わっているのです。

この映画のセルキーと呼ばれる妖精や人ならざる者達の存在が、

愛らしいキャラクターで描かれる事によって愛着と親近感を呼ぶ様に表現されています。

決して説教臭くない懐古主義というか、

忘れてはならない大事な本質についての物語であるという事が

分かるのでは無いでしょうか。

海の恵み

今日のおつまみは【漬けまぐろ】です。

海の映画を観ながら海の幸を食します。

スーパーで値引きシールを貼られたまぐろ様。

これはもう漬けるしか無いですよね。

茗荷の酢漬けとたっぷりの大葉がアクセント。

ガラスの器に映える最高の一皿になりました。

今日も白ワインが進んでしまいますね。

コミュニケーションとアニミズム

画像引用:© 2014 – Cartoon Saloon – Melusine Productions – The Big Farm – Superprod – Nørlum

今作が土着的で神話的なアニミズムをテーマとしているのは、

主人公のベンのコミュニケーションの成長を描く為であったのでは無いかと感じました。

母親を失い愛犬以外には心を開かなくなってしまった少年が、

この世界に宿る神や妖精の存在に触れる事で他人との心の触れあいに踏み出していく。

妹のシアーシャを想い、助け合い、勇気をもって成し遂げようとする。

彼の心の成長がこの世の者ならざる者達への理解から起こり、

それを信じた事で他人に優しさを向ける事が出来る様になっていくのです。

自分を取り巻く世界が、自分と無関係なものではなく、

そこには責任があり自分の力で取り戻さなければならないものがある。

少年の通過儀礼としては大規模な物語ではありますが、

これは宮崎駿監督作品にも通じる表現であると思います。

自分の不幸を他人の所為にして不貞腐れていた少年は、

危険を顧みず勇気を持って家族の為に戦う事で、

大きく変わり成長していました。

それは自分だけの考えや思考だけでは無く、

他者の信仰や生き甲斐を尊重できる人間である事の

大事を説いているのでは無いでしょうか。

異形の者として疎外していた妹の、

その身になって考え行動した事が彼を変えたのです。

冒険の旅に出てみたいと思った時に観る映画。

とにかく美しくて感動的な作品です。

我々が80年代に宮崎アニメで受けたイニシエーションを、

21世紀の子供達に強烈に与えた作品だと思います。

勿論大人だって童心に帰りたい時もあります。

その気になりさえすれば、いつだって冒険の旅に出る事は出来る。

そう思わせてくれた珠玉の一品です。