ドキュメンタリー映画

映画【スパークス・ブラザーズ】おつまみ【海老と蓮根のすり身揚げ】

画像引用:© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

この映画はこんな人におススメ!!

●スパークスのファンの人

●ポップミュージックの歴史に興味がある人

●一風変わったアーティストの内面に迫りたい人

●恐れずに変化し続けるマインドを学びたい人

タイトルスパークス・ブラザーズ
製作国アメリカ
公開日2022年4月8日(日本公開)
上映時間141分
監督エドガー・ライト
出演スパークス(ラッセル・メイル、ロン・メイル)、ベック、フリー、トッド・ラングレン、アレックス・カプラノス

立ち止まらない事の偉大さを感じたい時に観る映画

恥ずかしながら音楽好きを自認してきたのですが、

この映画を観るまで「スパークス」の存在を知りませんでした。

激しく猛省しています。何て迂闊だったのかと。

しかし彼等の音楽は非常に寛容で慈愛に満ちたものなので、

遅れてきたニューリスナーも温かく迎えてくれます。

今ではサブスクという強い味方もいるので、

彼等のディスコグラフィを辿る事のハードルは決して高くは無いのです。

本当に衝撃的なバンドです。他に類の無いとは彼等の為にある言葉でしょう。

音楽の根源的な喜びと、社会に生きる事の困難とを皮肉で表現した・・・・

などと言う説明云々は一切必要の無い最高の音楽がそこにはありました。

60年代から50年以上に渡る長いキャリアの中で、

一時も立ち止まらずに進化し続けてきた偉業。

彼等がミュージシャンに限らず後進のアーティスト達に与えた影響は、

インターネットの出現並みに甚大であり革命的だったのでは無いでしょうか。

(少しオーバー過ぎる表現ですが)

兎に角この映画を観れば彼等が何者で、

どんな活動をしてきた人物なのかの概要は掴めます。

そこから更に掘り進めるかは人それぞれの価値判断ですが、

間違いなく余生の楽しみが大幅に増えた事だけは断言出来ます。

それは個人的にはビートルズとの出逢いに匹敵する出来事だと思っています。

唯一無二の創造性

画像引用:© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

スパークスの二人はロサンゼルス出身の実の兄弟です。

全ての楽曲を制作するキーボードの兄ロン・メイルと、

卓越したハイトーンボイスのヴォーカルの弟ラッセル・メイル。

彼等のキャリアは紆余曲折、アップダウンの激しいジェットコースターの様で、

失敗と成功を果て無く繰り返しその度に新しいサウンドを生み出していきます。

作品の度にそれまでのスタイルを躊躇なく捨て去り再構築していく。

その果て無き創作意欲は常軌を逸しています。

映画の中では二人が息をする様に音楽を生み出し続け、

それがどの様に世の中に受け入れられたり、拒絶されてきたかを小気味良く羅列します。

そこにあるのは変化を続けながらも変わらない信念、

世の中に常に疑問を投げ掛け続ける姿勢、

例えそれが奇妙で不快な物を孕んでいようとも、

彼等は自分達の信念に沿って恐れず前進し続けるのです。

それがオリジナリティという手垢の付いた言葉を越えた創造性だと思います。

人間は本質的に既に多様であるのに兎角「多様性」である事を重要視します。

しかもそうして置きながらマジョリティの中に身を潜め流される事を欲します。

そんな矛盾と偽善に対して鋭いユーモアで我々をハッとさせるのが彼等の音楽なのです。

それがポップ音楽のあるべき姿なのでは無いでしょうか。

彼等の存在は決して万人受けする様な行儀の良い物ではありません。

常に大衆を挑発し既存の価値観を破壊しようとする反骨精神。

そんな異物に対して我々聴衆は、

違和感と不快感の果てに何だか分からないけどこれは凄そうだぞという興味を持ち、

仕舞いには深くのめり込んでハマっていってしまうのです。

それは彼等が音楽の中に常に人間の根源的な悩みや不安を

具現化してきたからでは無いかと思うのです。

それがポピュラーミュージックの持つ力であり希望でもあると感じるのです。

おつまみの創造性

今日のおつまみは【海老と蓮根のすり身揚げ】です。

これはもうビールにピッタリの抜群メニューです!

50年以上に渡るキャリアの中で進化を続けてきたスパークスには遠く及びませんが、

おつまみの歴史にも進化はあります。

妻の海老信仰については改めての言及は避けますが、

今回のおつまみの様に海老様に対する恐れを知らぬアレンジも、

変化を怖れないクリエイティビティの現れであると評価したいと思います。

蓮根のすりおろしと海老の細かく叩いた身を片栗粉の繋ぎでタネにし、

油でカラッと揚げただけのシンプルレシピ。

素材の持ち味だけを抽出した万人に愛される凡庸性。

お見事!

毎度ごちそうさまです。

究極のポップアイコン

画像引用:© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

何度も繰り返しますが彼等の最大の魅力は

「これは一体何なんだ?」と思わせる違和感であると思います。

拒絶も勿論されますが、諦めずに違和感を抱かせ続ける事が出来れば、

それはもう立派なフォロワーでもあるのです。

大衆とは飽きっぽくて直ぐに掌を返す移り気な存在です。

如何に必死に迎合しようとも、そもそもが実体の無い様なムードというものに

必然性は無いのだと思います。

それはあらゆる分野に言える事で、

アートの世界に限らず全ての仕事にも共通する部分でしょう。

何の為に釘を打ち続けるのかと言えば生活の為かも知れませんが、

どうしてそんな釘の打ち方をするのかと問われればそこには無限の哲学があるのです。

長いキャリアの中で拒絶と絶賛を繰り返してきたスパークスこそ、

究極のポップアイコンであると言えるのはその哲学に所以している様な気がします。

彼等は常に初期衝動に対する憧れが潰える事が無かったのです。

そこが常人とは異なる点だった様に映画を観ていると強く感じました。

「人を驚かせたい」とか「人に興味を持ってもらうのは素晴らしい事だ」という様な、

原初的な快感が彼等を茨の道に向かわせているので無いでしょうか。

映画には実に多彩なミュージシャンや関係者のインタビューが収録されています。

スパークスの生みの親でもあるロックの生ける伝説トッド・ラングレン。

現代音楽の最も先鋭的な存在とも言えるベック。

唯一無二のサウンドとカリスマ性を誇るレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー。

ニュー・オーダーやデュランデュランやデペッシュ・モードといった

伝説的バンドのメンバー達。

彼等の語るスパークスの魅力は実に千差万別で纏まりが無いようで一貫しています。

それが結局スパークスの実像なのだと思います。

立ち止まらない事の偉大さを感じたい時に観る映画。

人生に於いて好きな音楽が次々に増えていく事は至上の喜びだと思います。

この映画でスパークスという規格外のバンドの存在を知れたのは本当に有難いと思います。

何せ25枚ものアルバム、500曲にも及ぶ楽曲があるのですから。

まだまだ楽しみは尽きないのです。

皆様もスパークスを未見でしたら、

是非このドキュメンタリー映画を入口にしてみてはいかがでしょうか。

きっと人生の喜びが倍増する事と思います。