画像引用:IMDb
こんにちは!ころっぷです!!
今日の映画は【あん】です。
ドリアン助川の小説を原作に、
河瀬直美監督が演出。
日本を代表する大女優・樹木希林の圧倒的な存在感と、
美しい四季を映し取った感動の物語です。
この映画はこんな人におススメ!!
●人生を変えるキッカケが欲しい人
●差別や偏見について考えたい人
●美しい日本の四季を感じたい人
●生きる事の意味を考えている人
タイトル | あん |
製作国 | 日本、フランス、ドイツ |
公開日 | 2015年5月30日(日本公開) |
上映時間 | 113分 |
監督 | 河瀬直美 |
出演 | 樹木希林、永瀬正敏、 内田伽羅、市原悦子、 水野美紀、浅田美代子 |
何の為に生まれて来たのかを考える時に観る映画
今回は映画という枠を超えた所にある、
人生における大切な出会いの一つとも言える様な映画のおススメです。
長い人生、誰にだって辛い事や悲しい事はあります。
「何でこんな苦しいのに生きていなくちゃならないんだ?」
と、考えた事の一度や二度はあなたにもきっとある事でしょう。
人は生きる事に意味を持って生まれてきた訳ではありません。
ただ自分で安心する為に意味を見出したいだけなのではないでしょうか?
ただ生きているだけで素晴らしいという事を、
こんなにも説教臭く無く、自然な形で表現した映画も中々無い様に思います。
そこには樹木希林というとてつもないパワーを持った表現者の存在が大きい訳ですが、
この物語が我々に考えさせる「生きる事の意味」は、
ゆっくりと時間を掛けて咀嚼し分解、吸収する事で、
確実に血や骨や肉になって共に生きてくれる様なものであると思います。
まるで酸素の様に肺や脳を満たし、水の様に体を巡り、光の様に優しく照らしてくれる。
そんな滋養が画面から伝わってくる様な作品であると思います。
何の為に生まれて来たのかという問いに苦しい気持ちを抱いた時、
この映画は優しくその肩に手を置いてくれる様な作品なのです。
演技を越えた存在感
画像引用:IMDb
物語はあるどら焼き屋の雇われ店長・千太郎(永瀬正敏)と、
元ハンセン病患者の徳江(樹木希林)の出会いから始まります。
仕事にやりがいを感じず、孤独な日々を過ごす千太郎と、
飄々とした雰囲気で、ズカズカと人の懐に入り込んでくる徳江との、
映画の序盤はミスマッチの妙によるコメディ要素が引っ張っていきます。
攻めの樹木希林と受けの永瀬正敏の演技の枠を超えた自然なやり取りが面白く、
映画の中の登場人物としての人間関係の構築とは別の所で、
役者そのものの人間性が奏でるリアリティによって、
その場の空気が随時刷新されていく様が実にスリリングで爽快なのです。
このレベルでの説得力を持った役者というのはそうそう居ないのですが、
樹木希林という役者の凄まじい所は、周りの演者も巻き込んで
物語の色味を決定していってしまう様な影響力にもある様な気がします。
明らかに徳江さんというキャラクターは樹木希林という肉体を通して、
完璧な実体を持って観客の中に生きた存在に育っていくのです。
映画を観終わった後、そこには徳江という一人の人間の存在が、
信じられない程大きく残っています。
まるで親戚の誰それの事をふと思い出すかの様に。
徳江という人を知っている様な気になってしまっているのです。
そんな事が出来る役者は本当に稀なのでは無いでしょうか?
長く映画を見続けていると、気が付かない内に映画であるという一種の安心感の中で、
自分自身とは切り離した所で、慣例的な感動や習慣的な驚きに
終始してしまっている所がある様な気がします。
そんな壁を隔てた体感を悉く打ち破って、観る者の皮膚に刺さる様な体験を
もたらせてくれるのが、本物の役者であり、監督なのかも知れません。
銘菓で舌鼓
今日のおつまみは【ちちぶ餅】です。
映画「あん」に因んで餡子入りの銘菓です。
これは流石にお酒のお供には無理ですが、
埼玉県秩父市が誇る銘菓「ちちぶ餅」は本当に美味しいので是非おススメです。
モチモチのお餅の中に素朴ながらに味わい深い粒あんがギッシリ。
熱いお茶と共に至福の一時を満喫出来ました。
何かになれなくても、生きる意味がある
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この映画の主人公・徳江さんは元ハンセン病患者として、
隔離生活を余儀なくされ、差別と偏見に晒された人物です。
平成8年に「らい予防法」は廃止されましたが、人生の殆どの時間を
収容施設で過ごしてきた患者の多くは、社会生活に馴染む事に困難を感じてきました。
そもそも極めて感染力の低い感染症でありながら、
日本は完全隔離政策を続け、差別と偏見を助長しました。
彼等にとってその人生から奪われた機会や風景は筆舌に尽くし難く、
想像を絶するものです。
そんな徳江さんが得意の「あん」作りの腕を活かして、
千太郎のどら焼き屋を繁盛させるのですが、
やはりここでも差別と偏見によって居場所を奪われてしまいます。
徳江さんを守れなかった自責の念にかられる千太郎に徳江さんが送った言葉が印象的です。
私たちはこの世を見るために・・・
聞くために生まれてきた・・・だとすれば何かになれなくても
私たちには生きる意味があるのよ。
病気により自分の人生を思う様に生きられなかった徳江さん。
彼女は人よりも狭い世界の中で、多くのものを見て、
多くを聞いて生きてきた人間でした。
人の一生は「何の為にか」あるいは「誰の為にか」あるわけではありません。
何にもならなくても生きる事に意味があると教えてくれた、
徳江さんの姿はずっと心に生き続けて行きます。
何の為に生まれて来たのかを考える時に観る映画。
皆誰しも弱い心を抱え、不安と不満の中で生きています。
しかし少し目を凝らし、耳を澄ませば世界はこんなにも美しいという事を、
静かに教えてくれる映画です。
「役に立つ」事が唯一の存在価値とされる様な社会の中で、
生きているだけで意味があると本当に感じさせてくれる物語は実に貴重だったりします。
この作品には本物の苦しみと本物の涙が封じ込められています。
樹木希林さんという大きな役者が遺してくれた殊玉の作品。
是非、何度も繰り返し観て頂きたい映画です。