サスペンス映画

映画【関心領域】おつまみ【ジャーマンポテト】

画像引用:©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

この映画はこんな人におススメ!!

●ホロコーストの悲劇に関心がある人

●人間の無関心さの恐怖を味わいたい人

●過去から未来への教訓を学びたい人

●自分自身の関心領域を広げたい人

タイトル関心領域
製作国アメリカ、イギリス、ポーランド
公開日2024年5月24日(日本公開)
上映時間105分
監督ジョナサン・グレイザー
出演クリスティアン・フリーデル、
ザンドラ・ヒュラー
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知らねばならない事を知る為に観る映画

今回の作品は本当に衝撃的です。

覚悟を持って鑑賞される事をお勧めします。

所謂ナチスのホロコーストを扱った映画と言ってまず思い浮かぶのが、

1993年のスティーブン・スピルバーグ監督作品【シンドラーのリスト】だと思います。

クラクフ・プワシュフ収容所に強制収監されたユダヤ人達が、

次々に虐殺されていくシーンは目を覆いたくなる様な恐ろしさでした。

しかしこの【関心領域】に於いては、

直接的に虐殺を描く映像は一切登場しません。

この作品の凄い所はそれを「音響」だけで表現している点なのです。

100万人以上のユダヤ人が虐殺されたとされる、

アウシュビッツ収容所の隣に住むある一つの家族。

豪勢な邸宅で送られる裕福な生活を丹念に描き、

その彼等の家の壁一枚隔てた向こう側から漏れ聞こえる「音」だけで、

収容所での地獄の様な出来事を「想像」させるのです。

すぐ隣で歴史的大虐殺が行われている中、

庭に草花を育て、プールで遊び、豪勢な食事に舌鼓を打つ。

まるでこの世に暴力が存在しないかのように、

無関心でい続けるその「異様」な光景が、

次第に私達の心の中にも巣食う「普通」な姿なのでは無いかという

「疑問」が浮かび上がってくる。

正に観る者を巻き込んで強制的に「考えさせる」映画になっています。

私達の中の無関心

画像引用:©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

この作品はイギリスの作家マーティン・エイミスの小説を原作にしていますが、

登場人物は実在していて映画では細部まで忠実に再現しています。

撮影は実際にアウシュビッツ収容所の隣で行われ、

衣装や小道具に実際の物を使用したりもしています。

収容所の所長であるルドルフ・ヘスも実在の人物で、

映画ではこのヘスの人間性に大きな意味を置いて描いています。

彼は人類史上類の無い殺戮者であり「悪魔」の様な人間だったのでしょうか?

人を殺す事に喜びを感じ、

ナチスの信望する所の人種差別主義者であり、

冷酷非道な異常者だったのでしょうか?

今作の脚本・監督をしたジョナサン・グレイザーは、

彼とその家族の「無関心」は我々も持っている「感情」なのでは無いかと問うています。

彼等だけが特別な存在なのでは無く、

誰でも彼等の様になる可能性があるという事を示唆しているのです。

映画で描かれるルドルフ・ヘスという人物は、

非常に優秀な職業軍人で、実直に職務に励み、

家族を愛し、子供達の行く末を案じる普通の父親なのです。

彼は後に手記の中で書き残しています。

「私は命令を受けた。だから実行しなければならなかった。」

「世人は冷然として私の中に血に飢えた獣、残虐なサディスト、大量虐殺者を見ようとするだろう。~中略~彼らは決して理解しないだろう。その男もまた、心を持つ一人の人間だったということを。」

つまり今現在も世界では戦争や虐殺が実際に行われていて、

その事にどれだけの人間が本当の意味で「関心」を持っているのか。

もし私達がヘスと同じ立場に立たされたとしたら一体どうするだろうか。

その事をホロコーストを描く事で私達に強烈に問い掛けているのです。

おつまみの関心領域

今日のおつまみは【ジャーマンポテト】です。

流石に食欲が湧く様な映画では無いですが、

それでもドイツという事でこのメニューにしてみました。

どんな状況でもおつまみへの関心領域は無限大です。

大豆とパプリカを加える事で申し訳程度の健康への配慮も。

映画は恐ろしい「無関心」を描いていますが、

私達は自分自身の「関心領域」とも常に対峙しなければなりません。

食で心を満たす事はとても大切な事ですから。

希望の林檎

画像引用:©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

監督のジョナサン・グレイザーは壁の内側の平穏を描く事で、

その向こうの惨劇を強烈に私達に「想像」させました。

またそれと同時にいくつかの印象的な作為を示しました。

その一つが映画の中で差し挟まれるサーモグラフィの様なモノクロのシーン。

収容所の近くに暮らすポーランド人の少女が、

アウシュビッツで強制労働を強いられているユダヤ人達の為に、

林檎を地中に隠すというシーンです。

これはグレイザー監督がこの映画のリサーチ中に実際に出会った、

90歳のポーランド人の老婆の実体験から着想を得たという事です。

劇中ではこれにヘスが子供達にベットで読み聞かせる「ヘンゼルとグレーテル」の

話と絡めて描写しています。

飢えと絶望の中にいた収容者達にとって、

僅かな希望の光であったはずの一つの林檎。

これは全ての人間が「無関心」だという訳では無いと言う微かな希望でもあるのです。

ヘンゼルとグレーテルは口減らしの為に森に捨てられた不幸な兄妹です。

しかし機知に富んだグレーテルは悪い魔女を竃で焼き殺して助かります。

これはドイツのグリム童話ですが、

立場や状況は異なれども、人間は如何様にも残酷になれるという

恐ろしい話でもあります。

そして更に驚きの作為的な演出が施されたラストシーン。

これは観る人によって様々な解釈が可能な描写なのですが、

監督による我々現代人に対する痛烈なメッセージである事は間違い無いでしょう。

ホロコーストは「過去」の異常な出来事だった訳では無く、

「今」もここにある人間の恐ろしさの一つの表層なのだという事。

ヘスが最後に私達に向けたカメラ目線には、

「あなたはどうなのか?」という問い掛けがあるのだと思います。

知らねばならない事を知る為に観る映画。

今作は本当に奥深い衝撃的な作品だと思います。

一度観ただけでは中々理解に及ばない所もあるかも知れません。

しかしこれは確かに「見るべき」作品だと思います。

底知れない恐ろしさと、そこから考えなければならない命題へと誘ってくれる、

一生忘れられない映画体験が出来る作品だと思います。